「貯蓄の平均2059万円」というニュースを見て、通帳を閉じたくなりませんでしたか。
安心してください、その数字と自分を比べること自体が間違いです。
この記事では2つの公的統計を突き合わせ、平均と中央値のカラクリと、今日からの正しい目標設定をお伝えします。
結論:「平均2059万円」とあなたの通帳を比べてはいけない
結論から言うと、貯蓄の平均額をそのまま自分の比較基準にしてはいけません。
理由は3つあります。
平均値は富裕層が引き上げている
1つ目、平均値は一部の富裕世帯に引き上げられるからです。
総務省の家計調査(貯蓄・負債編)2025年平均によると、二人以上世帯の貯蓄現在高の平均は2059万円でした。
ところが、この平均を下回る世帯が全体の66.1パーセント、約3分の2を占めます(出典:総務省統計局、家計調査報告(貯蓄・負債編))。
3世帯に2世帯が「平均以下」になる数字を、普通の物差しと呼べるでしょうか。
貯蓄の定義が統計によって異なる
2つ目、統計によって「貯蓄」の定義が違うからです。
同じ2025年を対象にした金融経済教育推進機構(J-FLEC)の調査では、二人以上世帯の金融資産の平均は1940万円、中央値は720万円です(出典:J-FLEC、家計の金融行動に関する世論調査2025年)。
家計調査の中央値1264万円とは544万円もズレています。
どちらかが間違っているのではなく、数えているものが違うのです。
母集団の違い
3つ目、母集団があなたと違うからです。
「二人以上世帯」の統計には、退職金を受け取った70代世帯も含まれます。
30代の単身者が比べる相手ではありません。
つまり「みんなの貯蓄はいくらか」という問いは、「どの統計の、どの数字と、どの条件で比べるか」を決めてからでないと答えが出ない問いなんですよ。
本文では、この3つの視点を順番に解きほぐしていきます。
貯蓄とは何か。貯金との違いを30秒で整理する
まず言葉の整理からしていきましょう。
「貯蓄と貯金の違い」は検索でもよく調べられていますが、実務ではこう区別します。
- 貯金: ゆうちょ銀行やJAバンクなどにお金を預けること。広い意味では現金を貯める行為全般
- 預金: 銀行や信用金庫などにお金を預けること
- 貯蓄: 預貯金に加えて、株式、投資信託、生命保険(積立型)など金融資産全般を蓄えること
ポイントは、統計でいう「貯蓄」が通帳残高よりずっと広い概念だという点です。
貯蓄には有価証券や保険も含まれる
家計調査の貯蓄には預貯金だけでなく、生命保険の掛金や株式・投資信託などの有価証券が含まれます。
だから「貯蓄の平均2059万円」は、預金通帳に2059万円あるという意味ではありません。
実際、2025年平均の内訳を見ると、通貨性預貯金710万円、定期性預貯金511万円、生命保険など369万円、そして有価証券が440万円です。
ここで気づいてほしいことがあります。
有価証券は前年比16.7パーセント増と、内訳の中で突出して伸びています。
株価が上がれば、追加で1円も入金しなくても「貯蓄」は増えるのです。
2059万円という過去最多の数字の一部は、貯めた成果ではなく、株高による評価額の膨張です。
NISAで投資信託を持っている人の含み益も、統計上は立派な貯蓄にカウントされています。
あなたの「貯蓄」を数えるとき、証券口座やiDeCoの残高まで足し合わせていますか。
足していないなら、統計との比較はその時点でフェアではありません。
逆のパターンもあります。
積立型の生命保険に長年入っている人は、解約返戻金相当額という形で意外な貯蓄を持っていることがあります。
相談の現場で家計の棚卸しをすると、「貯金は少ないと思っていたのに、保険まで含めたら統計の中央値を超えていた」というケースは珍しくないんですよ。
言葉の定義を知ることは、単なる知識ではなく、自分の資産を正確に数えるための実務スキルです。
総務省の家計調査が示す貯蓄の平均と中央値
それでは本丸のデータを見ていきます。
総務省が2026年5月19日に公表した家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年平均結果の要点は次のとおりです。
- 二人以上世帯の貯蓄現在高(平均値): 2059万円(前年比プラス75万円、7年連続増加、比較可能な2002年以降で最多)
- 貯蓄保有世帯の中央値: 1264万円(前年1189万円)
- 平均値を下回る世帯の割合: 66.1パーセント
- 年間収入: 681万円、貯蓄年収比は302.3パーセント
働き盛りに絞った勤労者世帯では、平均1717万円、貯蓄保有世帯の中央値は1015万円です。
全体より数字が下がるのは、退職金や相続を受け取り済みの高齢世帯が母集団から外れるためです。
注目すべきは伸び率で、勤労者世帯の平均は前年比8.7パーセント増と、全体の3.8パーセント増を大きく上回りました。
賃上げによる収入増と、現役世代への投資の浸透が数字を押し上げた形です。
貯蓄年収比302.3パーセントという指標も補足しておきます。
これは貯蓄が年収の約3年分あるという意味で、家計の体力を測る物差しの一つです。
ただしこの数字も平均ベースですから、中央値で考えれば実際の「体力」はもっと控えめです。
年収の何年分という発想は、老後資金を考えるときに自分の家計へそのまま応用できます。
注意したいのは、この中央値1264万円が「貯蓄保有世帯」の中央値だという点です。
貯蓄ゼロの世帯を除いた上での真ん中なので、ゼロ世帯を含めた参考値の中央値はさらに低い水準になります。
ニュースの見出しで「中央値1264万円」だけを見ると、まだ実態より高めの印象を受けてしまうわけです。
負債も増えている
負債側も見ておきましょう。
二人以上世帯の負債現在高の平均は675万円で、こちらも2002年以降で最多です。
負債の91.9パーセントは住宅・土地のためのもの、つまり住宅ローンです。
貯蓄と負債がそろって過去最多という事実は、家計が「資産も借金も膨らませながら回っている」ことを意味します。
片面だけ見て一喜一憂するのは危険ですね
J-FLEC調査では中央値720万円という現実
ここで冒頭の疑問に戻ります。J-FLECの家計の金融行動に関する世論調査2025年(2025年6月から7月に実施)では、金融資産の保有額はこうなっています。
- 二人以上世帯: 平均1940万円、中央値720万円
- 単身世帯: 平均919万円、中央値130万円
この調査は全国の二人以上世帯5000世帯、単身世帯2500世帯を対象にしたインターネットモニター調査で、年齢や地域のバランスは国勢調査に基づいて調整されています。
単身世帯では約3割が金融資産を保有しておらず、全世帯の8割弱が平均値を下回ります。
中央値130万円という数字は、単身の読者にとって家計調査よりはるかに実感に近いのではないかと思います。
収入面のデータも押さえておきましょう。
同調査によると、過去1年間の手取り収入は二人以上世帯で平均609万円・中央値500万円、単身世帯で平均274万円・中央値220万円でした。
収入ですら平均と中央値がこれだけ乖離するのですから、複利で積み上がる資産の分布がさらに偏るのは、構造上避けられない現象です。
総務省とJ-FLECの統計の差の種明かし
では、なぜ家計調査の中央値1264万円とJ-FLECの720万円で、これほど差が出るのでしょうか。
種明かしは3つです。
定義の違い
まず定義の違いです。
J-FLEC調査の「金融資産」は、預貯金のうち日常的な出し入れや引き落としに備えている部分を含みません。
運用や将来への備えとして蓄えている部分だけを数えます。
生活費が寝ている普通預金を含む家計調査より、数字が小さくなるのは当然です。
集計の違い
第二に、集計の違いです。先ほど触れたとおり、家計調査の中央値は貯蓄ゼロ世帯を除いた「保有世帯の中央値」です。
一方でJ-FLECの中央値は非保有世帯をゼロとみなして含めた数字として広く引用されます。
つまり、真ん中の位置が下にずれているのです。
調査方法の違い
最後は調査方法の違いです。
家計調査は家計簿方式の継続調査、J-FLECはインターネットモニター調査で、対象世帯の年齢構成も異なります。
同じ国の、同じ年の「貯蓄の平均・中央値」でも、設計図が違えば数字は1000万円単位で変わる。
これが統計の現実です。あなたがこれまで見てきた「みんなの貯蓄」の記事は、どちらの統計の、どちらの値を使っていましたか。
出典を確かめる習慣だけで、情報の見え方は一変します。
政権や政党の支持割合とかも各社でかなり結果が違いますよね。
これも同様の話ですね。
平均と中央値の違い:見方のポイントと「貯蓄統計3点照合法」
平均と中央値の違いを、ここで一度だけきちんと押さえておきます。
平均値は全員の貯蓄を足して世帯数で割った値です。
中央値は、貯蓄の少ない順に全世帯を一列に並べたとき、ちょうど真ん中に立つ世帯の値です。
貯蓄のように「ゼロが多く、ごく少数が数億円持つ」右に裾の長い分布では、平均は少数の富裕層に強く引っ張られます。
J-FLECの資料でも、9世帯の例で平均1940万円を超えるのは3世帯だけ、という説明がなされています。
だから、自分の立ち位置を知りたいなら中央値、社会全体の資産総量の変化を知りたいなら平均、と使い分けるのが見方のポイントです。
日経平均とTOPIXの違いなんかも同様ですね。

具体例を挙げます。
「日本の家計は株高でどれだけ豊かになったか」を論じるなら、評価額の増加を丸ごと拾う平均値が適切です。
一方「自分の貯蓄は同世代の中でどの位置か」を知りたいなら、富裕層の影響を受けにくい中央値を見るべきです。
テレビや記事の見出しは数字の大きい平均値を好みますから、読者の側で変換する必要があるわけですね。
もう一つ、時系列で比べるときの注意もあります。
中央値が上がっていれば「真ん中の世帯」が豊かになった証拠ですが、平均だけが上がっている場合は上位層に富が集中しただけかもしれません。2
025年は家計調査の中央値が1189万円から1264万円へ上昇しており、真ん中の世帯にも改善が及んだ年でした。
それでも平均との差は795万円あり、分布の偏りは依然として大きいままです。
平均は他人の資産で膨らむ。見るべきは中央値と、来月の積立額。
これがこの記事で一番持ち帰ってほしい一文です。
その上で、貯蓄統計を見るたびに確認してほしい3点を、チェック表にまとめました。名づけて「貯蓄統計3点照合法」です。
| 照合ポイント | 確認すること | 落とし穴の例 |
|---|---|---|
| 1. 定義 | 何を貯蓄と数えているか | 日常用の預金や保険、有価証券の扱いが調査ごとに違う |
| 2. 代表値 | 平均か中央値か、ゼロ世帯を含むか | 保有世帯限定の中央値は高めに出る |
| 3. 母集団 | 世帯構成、年齢、勤労者かどうか | 二人以上世帯の数字を単身者が比べてしまう |
この3点を照合せずに数字だけ比べるのは、身長の統計に体重を混ぜて「自分は平均以下だ」と落ち込むようなものです。
スクリーンショットでもメモでも構いませんので、次に貯蓄の統計を見るときに使ってみてください。
年代別の実像とNISA貧乏・iDeCo貧乏への警鐘
年代別のデータには、もう一つの真実が隠れています
家計調査2025年平均で、貯蓄から負債を引いた純貯蓄額を世帯主の年齢別に見てみましょう。
- 40歳未満: 貯蓄994万円、負債1882万円(888万円の負債超過)
- 40代: 貯蓄1381万円、負債1483万円(102万円の負債超過)
- 50代: 貯蓄1756万円、負債743万円(1013万円の貯蓄超過)
- 60代: 貯蓄2843万円、負債234万円(純貯蓄2609万円で最多)
50歳未満は、統計上「負債の方が多い」のが標準です。
住宅ローンを抱えて資産形成する現役世代にとって、これはむしろ自然な姿と言えます。
40歳未満で貯蓄が平均に届かなくても、悲観する理由はどこにもありません。
全世帯の平均2059万円という数字は、住宅ローンを完済し、退職金を受け取った60代以降の世帯が大きく押し上げたものだからです。
30代の世帯が60代の貯蓄と自分を比べるのは、マラソンの30キロ地点でゴール済みの選手のタイムと自分を比べるようなものです。
負債保有世帯の割合が最も高いのは40代の67.0パーセントで、教育費と住宅ローンが同時に重なるこの年代こそ、金額比較の呪縛から最も自由になるべき世代だと考えています。
むしろ私が実務で心配しているのは、逆方向の失敗です。
「平均に追いつきたい」という焦りからNISAとiDeCoに手取りの3割以上をつぎ込み、手元資金が数十万円まで痩せている方も見えます。
「NISA貧乏」「iDeCo貧乏」と呼ばれるかたも。
投資そのものは、有価証券が貯蓄の伸びをけん引した統計が示すとおり、資産形成の強力なエンジンです。
J-FLEC調査でも、元本割れの可能性がある収益性の高い金融商品を保有しようと考える二人以上世帯は53.9パーセントに達しています。
流れは明らかに「貯蓄から投資へ」です。
だからこそ他人の残高という金額ではなく、自分手取りに対する貯蓄割合という率で管理してほしいのです。
生活防衛資金として生活費の半年分を現預金で確保し、その上で手取りに占める貯蓄・投資の割合を無理なく続く水準に設定する。
金額の比較は焦りを生みますが、率の管理は習慣を生みます。

よくある質問
- 貯蓄と貯金の違いは何ですか?
-
貯金はゆうちょ銀行やJAバンクなどへの預け入れや現金を貯める行為を指し、銀行への預け入れは預金と呼びます。
貯蓄はさらに広く、預貯金に株式・投資信託・積立型保険などを加えた金融資産全般を蓄えることです。
統計の貯蓄額には有価証券も含まれます。
- 貯蓄の平均と中央値はどちらを見るべきですか?
-
自分の立ち位置を知るなら中央値を優先します。
平均は高額資産世帯に引き上げられやすいため、一般的な家計感覚からズレます。
平均は全体傾向、中央値は実感に近い目安として使い分けます。
- 手取りのうち貯蓄割合はどれくらいが目安ですか
-
一律の正解はなく、まず生活費の半年分の生活防衛資金を現預金で確保することが先決です。
その後は手取りに対する率で目標を決め、NISAやiDeCoへの拠出は途中で取り崩さずに続けられる水準に抑えるのが、NISA貧乏を避けるコツです。
- NISAを優先して貯蓄が少なくても大丈夫ですか?
-
生活費や1年以内の支出に不安があるなら、NISAより現金余力の確保を優先した方が安全です。
投資は長期資金で行うものです。
生活防衛資金や税金、車検などの予定支出を分けてから積立額を決めましょう。
まとめ
最後に、この記事を閉じる前の3ステップです。所要10分ほどで終わります。
- 自分の金融資産を統計と同じ土俵で合算する。預貯金、NISAやiDeCoを含む有価証券、積立型保険の解約返戻金相当額まで足します
- 自分と同じ世帯類型の中央値と比べる。二人以上世帯なら720万円から1264万円のレンジ、単身世帯なら130万円が2025年時点の目安です
- 金額ではなく貯蓄割合で来月の目標を決める。手取りの何パーセントを貯蓄と投資に回すか、生活防衛資金の確保を最優先に設定します
ステップ1でつまずく人が実は一番多いので、補足します。
銀行口座、証券口座、iDeCoの記録、保険証券。この4種類の残高を一枚のメモに書き出すだけで、統計と同じ土俵の「自分の貯蓄額」が完成します。
家計簿アプリの資産連携機能を使えば5分で終わります。
数えたことがない資産は、増やすこともできません。
ステップ3の率で決めるという発想は、収入が変動する自営業やフリーランスの方にこそ効きます。
金額固定の積立は収入減の月に破綻しますが、率で決めた積立は収入に連動して自動的に無理のない水準へ調整されるからです。
比較のゴールは安心でも劣等感でもなく、来月の行動を1つ決めることです。
積立額の具体的な設計方法は、当ブログのNISA・iDeCo関連の記事で詳しく解説していますので、続けてどうぞ。どちらも数分で読めます。
統計は人を焦らせる道具ではなく、自分の現在地を知る地図です。地
図の読み方さえ間違えなければ、歩く速さは人それぞれで構わない。
そう考えています。
逆に出てきた情報について自分にとって都合の良い部分だけ信じてしまうという心理にも気をつける必要があります。
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