近年、夏の猛暑は年々厳しさを増しています。
もはやエアコンは「あれば便利な家電」ではなく、命を守るための必需品といっても過言ではありません。
そんなエアコンに関して、今「2027年エアコン問題」という言葉が注目を集めています。
経済産業省が策定した新しい省エネ基準が2027年度から適用されることで、これまで販売されてきた格安モデルのエアコンが市場から姿を消すかもしれないというのです。
本記事では、エアコンの2027年問題について、その背景から具体的な影響、補助金の活用方法、そして買い替えの最適なタイミングまでを詳しく解説します。
これからエアコンの購入を検討している方、すでに設置から10年以上経過したエアコンをお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
エアコンの2027年問題とは?わかりやすく解説
まずは今回の話の概要をわかりやすく解説しておきましょう。
省エネ基準の大幅な引き上げが背景にある
エアコンの2027年問題を理解するためには、まず「省エネ基準」について知っておく必要があります。
経済産業省は「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」に基づき、家庭用エアコンに対して省エネ基準を設けています。
この基準は「トップランナー方式」と呼ばれる仕組みで策定されており、現在市場に出ている製品の中で最も省エネ性能が優れているものを参考に、将来の目標値を設定するというものです。
2022年5月、経済産業省は2027年度を目標年度とする新たな省エネ基準を公布しました。
この新基準では、エアコンの省エネ性能を示す「APF(通年エネルギー消費効率)」が大幅に引き上げられています。
APFとは、年間を通じた冷房および暖房運転に必要なエネルギー量と能力の比率を数値化したもので、この数値が高いほど省エネ性能が優れていると判断されます。
新基準では、現行基準と比較して最大34.7%もの性能向上が求められているのです。
特に注目すべきは、リビング用として需要の高い10〜12畳用(冷房能力4.0kW)のエアコンです。
このクラスでは現行のAPF4.9から新基準のAPF6.6へと、約35%もの改善が必要になります。
6〜8畳用の一般的なサイズでも、APF5.8からAPF6.6への引き上げが求められ、13.8%の改善が必要です。
その結果として懸念されているのが、
- これまでの「格安モデル」が基準を満たせず、市場から減っていく
- 高性能モデル中心になり、平均価格が上がる可能性が高い
という点です。
さらにエアコン内部の「冷媒ガス」に対する国際的な規制も進んでいるため、古いエアコンの修理費がかなり高くなるリスクまで含めて「2027年問題」と呼ばれることが増えています。
ポイントを一言でまとめると、
「安いエアコンは販売されなくなり、古いエアコンの修理は高くなりやすい。その前にどう動くか考えよう」
という話です。
エアコン2027年問題はいつから始まる?
エアコンの2027年問題がいつから始まるのかは、多くの方が気にされるポイントでしょう。
時系列で整理しておきます。
先に結論からお話しておくと「2027年」と銘打たれていますが、経済的な影響は「いつから」という明確なラインがあるわけではなく、グラデーションのように既に始まっているんですよ。
2022年:新しい省エネ基準が決まった年
2022年に、家庭用エアコンの新しい省エネ基準(トップランナー基準)が策定されました。目標年度は壁掛けエアコンが2027年度、天井カセットなどその他のタイプが2029年度に設定されています。
同時に、省エネラベルも新基準に対応した形に変更され、カタログや店頭のラベルを見ると「2027年度目標に対して何%達成しているか」がわかるようになっています。
2026年度末まで:猶予期間
基準はすでに決まっていますが、メーカー側には2026年度末までの猶予期間があります。
この間は、現行基準のエアコンも製造・販売が可能です。工務店などの解説でも「2026年度末までは基準未達のモデルも作れる」と説明されています。
2027年度から:新基準を満たすエアコンだけが新規製造可能
経済産業省の告示によれば、壁掛形の家庭用エアコンについては、2027年度、つまり2027年4月から新基準が適用されます。
新基準をクリアしたエアコンのみが製造・販売できる方向でルールが動いているのです。
壁掛形以外のタイプ(天井埋込カセット形、壁埋込形、床置形など)やマルチタイプについては、2029年度からの適用となっています。
ここで重要なのは、
- 2027年以降も、すでに設置済みのエアコンはそのまま使える
- ただし、新しく買うエアコンは、原則として新基準を満たしたモデルのみになる
という点です。
冷媒(フロン)規制の時間軸も重なってくる
同じタイミングで進んでいるのが、エアコンの冷媒ガス(R410A、R32など)に対する国際的な削減スケジュールです。
日本も2024年から削減フェーズに入り、2027年以降は高GWP(温暖化効果の大きい)冷媒の使用が本格的に制限されます。
各社はR454CやR466Aといった新しい冷媒への切り替えを進めています。
この結果、
- 古い冷媒を使うエアコンの冷媒ガスが高騰・品薄になるリスク
- 2029年以降は、冷媒不足で「修理したくてもできない」ケースが増えるとの指摘
も出ています。
エアコン2027年問題で何が変わる?価格・品揃え・修理を整理
それでは実際に2027年4月以降どのような変化が起きるのでしょう?
エアコンの価格:本体は上がりやすく、電気代は下がりやすい
新省エネ基準では、エアコンの効率(APF)が大幅に引き上げられています。
壁掛け4.0kWクラスでは、APFが4.9から6.6へ、約35%近い効率アップが目標です。
このレベルの省エネ性能を実現するには、
- コンプレッサーや熱交換器などの部品高性能化
- 制御基板の高機能化
- 場合によっては新冷媒への対応
といったコスト増要因が重なります。
そのため、家電量販店では、低価格帯モデルが減り、全体として価格帯が一段上がるのではないかと指摘されています。
高い省エネ性能を実現するためには、より効率的な圧縮機の採用、熱交換器の大型化、制御技術の高度化など、様々な技術改良が必要になります。
一般的に、室内機や室外機の熱交換面積が大きいほど、空気との熱交換効率が高まり、冷暖房機能の向上と消費電力の削減が両立できます。
しかし、こうした性能向上にはコストがかかります。
これまで格安モデルでは、コストを抑えるために必要最小限の性能に留めていた部分がありました。
新基準ではそうした「割り切り」が許されなくなり、結果として低価格帯の製品が成り立たなくなる構造になっているのです。
電気代を考えると早めの買い替えも
一方で、エアコンは「買って終わり」ではなく、10年前後の寿命のあいだ電気代を支払い続ける設備です。
省エネ性能が高いほど、年間の消費電力は下がり、ある調査では年間1万円以上の電気代差が出るケースもあるとされています。
つまり、
- 本体価格はやや上がる方向
- しかし10年トータルでは「電気代の差」で取り返せる可能性がある
という構図です。
投資でいえば、初期投資が増える代わりにキャッシュフローが改善するイメージに近いですね。
個人的なおすすめは再熱除湿付きのエアコンです。

エアコン2027年問題と修理リスク
2027年問題で、個人的にもっとも気にしておきたいのが修理リスクです。
現在主流の冷媒は
- 古い機種:R410A
- 現行主流:R32
ですが、これらはCO₂の数百〜数千倍の温暖化効果があるため、「キガリ改正」によって段階的な削減が決まっています。
2027年以降、日本でも本格的に使用量が絞られていく見込みです。
その結果として予想されているのが、
- 古い冷媒のガス価格が上がる
- ガス自体が入手しづらくなり、修理を断られるケースが出てくる
- メーカーの部品保有期間(だいたい製造終了後10年前後)も切れてくる
というダブルパンチです。あるシミュレーションでは、R410A機のガス補充+部品交換で15〜25万円になるケースも試算されており、新品を買った方が安い可能性もあるとされています。
下手をするとガスが入手できずに修理不可の可能性もあります。
「壊れたらそのとき考える」で放置すると、
真夏に故障 → ガスも部品も高い → 工事枠も埋まっている → 高い新品を選ばざるを得ない
という、典型的な「一番損をするパターン」になりかねません。
今のうちにガス補充?
だったら2027年問題を前にして、古いエアコンのガス補充などをしちゃえば良いって考える方も多いでしょう。
しかし、これも悪手の可能性が高いです。
行動経済学における「サンクコスト(埋没費用)効果」をご存知でしょうか?
「これまで使ってきたのだからもったいない」「修理すればまだ使えるはずだ」という心理が働き、非合理的な出費をしてしまう現象です。
「直して使う」美徳は理解できますが、今後のガスの入手難易度、エアコンの寿命、電気代などのことを考えると、冷媒規制の壁にぶつかる前に買い替えを検討する必要もあるでしょう。

エアコン2027年問題と補助金・助成金
今回のエアコン2027年問題で買い替えを検討する際にぜひチェックしておきたいのが補助金、助成金です。
家庭向け:省エネ家電や住宅リフォームとセットの補助金
いまのところ、「エアコン2027年問題向けの専用補助金」が国レベルで用意されているわけではありません。
ただし、省エネ設備への切り替えを支援する補助金やポイント制度は、国・自治体ともに毎年のように実施されています。
例としては、
- 省エネ家電購入支援(自治体ごとの家電ポイント・キャッシュバック事業)
- 断熱改修+高効率設備をまとめて行う「住宅リフォーム補助」の一部で、空気清浄・換気機能付きエアコンが対象になるケース
などがあります。
「子育てグリーン住宅支援事業」や「東京ゼロエミポイント」でエアコンが対象となった例もありました。
ただし、これらは
- 予算や年度で内容がコロコロ変わる
- 「エアコン単体」ではなく、断熱工事や給湯器交換とセットでないと使えないケースが多い
というクセがあります。
「補助金が出るから買う」ではなく、「どうせ交換するなら補助金を併用できないか確認する」くらいの距離感で見ておくのが現実的です。
また、これらの補助金は「予算上限に達し次第終了」という早い者勝ちの性質を持っていることも知っておきたいところ。

事業者・賃貸オーナー向け:中小企業向けの省エネ補助金
店舗・オフィス・賃貸物件など、事業でエアコンを使っている場合は、国の補助金が使えるケースもあります。
たとえば、
- 省エネルギー投資促進支援事業費補助金
- 中小企業の脱炭素化支援補助金
- グリーン成長戦略に基づく省エネ促進事業
などでは、高効率な業務用エアコンや冷凍機、場合によっては冷媒回収費も補助対象となることがあります。
補助率は1/3〜1/2程度が多く、複数台まとめての更新と相性が良いです。
また、条件を満たす必要がありますが、熱中症対策などでエアコン購入に助成金が使えるケースもあります。
- 業務改善助成金
- エイジフレンドリー助成金
- 働き方改革推進支援助成金
などです。
エアコンはいつ買い替えるべきか?
エアコンの「買い時」は、株のエントリータイミングと同じで、完璧な正解は事後にならないとわかりません。
それでも「後悔しにくい選択」を考えることはできます。
パターン1:2025年〜2026年前半に計画的に買い替える
この時期は、
- まだ現行基準モデルも多く、選択肢が豊富
- 新基準クリアモデルも徐々に増え、カタログで比較しやすい
という「両方を見比べられる」期間です。
すでに10年以上使っているエアコンや、冷房・暖房の効きが悪いエアコンをお持ちなら、
「壊れてから慌てる」前に、工事枠に余裕がある春・秋に入れ替える
という動き方が、もっとも損をしにくい選択肢だと感じます。
アイリスオーヤマなどだとこんな価格で買えるんですよ。
パターン2:2026年の「駆け込み需要」を見ながら動く
2026年は、
- メーカー各社が新基準対応モデルを本格的に投入
- 一方で、「旧モデルを安く処分する」動きも出やすい
という、相場で言えば「イベント前後でボラティリティが高い年」になりそうです。
すでに一部の解説では、価格上昇や在庫不足のリスクも指摘されています。
「できるだけ安く買いたい」という節約家目線であれば、ここで型落ちモデルを狙う戦略もありますが、
- 真夏に故障してからでは選択肢が限られる
- 冷媒・部品の供給リスクが高い型番は避けたい
という点は意識しておきたいところです。
パターン3:2027年以降、新基準モデル+補助金に期待して待つ
「どうせ買うなら一番省エネなモデルがいい」という考え方ももちろんあります。
2027年以降は、
- 新基準を完全に満たした最新モデルが主流になる
- 国や自治体が、エアコン2027年問題用の補助金を打ち出す可能性もある
というメリットがあります。
一方で、
- 低価格帯モデルが減り、平均価格は高止まりしやすい
- 冷媒規制の影響で、古いエアコンの修理費は上がる一方
というデメリットも無視できません。
「2027年まで待つ」のは、今のエアコンが比較的新しい(5〜7年以内)場合や、壊れても一時的に他の暖房・冷房手段で凌げる家庭向きの戦略です。
まとめ
エアコンの2027年問題は、
- 2027年度から始まる新しい省エネ基準
- 冷媒規制によるガス・部品の供給リスク
が重なって起きている、「価格」と「修理リスク」の問題です。
煽る必要はありませんが、
- 古いエアコンを抱えたまま何も考えない
- 真夏・真冬の故障で高い修理費や高い新機種を掴まされる
というのは、できれば避けたいところです。
ご自宅や賃貸物件のエアコンの状況を一度棚卸しし、
- 「いつまで今のエアコンを使うか」
- 「更新するなら、どのタイミングで、どのくらいの予算か」
- 「補助金や電気代の差をどう組み合わせるか」
をざっくりでも決めておくと、2027年問題は「怖いニュース」から「計画的な設備投資のきっかけ」に変わっていきます。
そのうえで、投資家としては、エアコン2027年問題を「家庭の話」で終わらせず、空調メーカー・部品メーカー・不動産市場全体への波及効果もあわせて眺めておくと、次の投資テーマのヒントにもなってくるはずです。
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