2025年12月、ドローンネットが倒産しました。
負債は約1,445億円規模で、2025年として最大級と報じられています。
しかも今回は、単なる“ドローン事業の不振”というより、「ドローンネット 節税」「ドローンネット マイニング」と結び付いた話題が多く、投資家だけでなく、節税に関心のある経営者にも直撃しました。
これらはインフルエンサーがかなり煽っていた節税策でもあるんですよ。
この記事では、一次情報(信用調査機関・破産管財人サイト・国税庁資料)を軸に、煽らず、でも甘く見ない視点で整理します。
ドローンネットとは何だったのか?
ドローンネットは2017年3月に設立
ドローン本体の販売・研究開発からスタートし、ドローン用カメラなど関連機器の開発、ドローン操作に関するスクール運営、体験イベントやレースの開催など、事業の幅を広げていきました。
産業向けの「DRONE the WORLD」とコンシューマー向けの「SKY FIGHT」の2ブランドでフランチャイズ展開も行い、加盟料収入も得ていました。
旺盛なドローン需要にも支えられ、2020年2月期に21億9,289万円だった売上高は、2023年2月期には313億8,649万円へと急成長しました。
ドローン節税から暗号資産マイニング事業へ
ドローンネットの急成長を支えたのが「ドローン節税」の需要でした。
10万円未満のドローンは少額減価償却資産として即時全額損金算入が可能であり、決算対策として多くの法人・個人がドローンを購入していました。
税理士インフルエンサーなどもかなり煽っていましたね。
しかし、2022年4月の税制改正でドローンを活用した節税スキームが封じ込められると、ドローンネットは新たな収益源としてマイニング事業に参入します。
暗号資産のマイニング装置を少額減価償却資産になる9万9,000円で販売し、暗号資産の還元や節税効果を謳って購入者を募りました。
この結果、2025年2月期の売上高は前年比2倍以上となる977億4,278万円に達しました。
倒産に至った経緯
次に倒産に至った経緯をみていきましょう。
東京国税局から約30億円の所得隠しを指摘
2025年6月、ドローンネットが東京国税局から約30億円の所得隠しを指摘されたことが報じられました。
関係者によると、マイニング装置の売上計上の時期が問題となったようです。
2024年2月期に対する重加算税を含め約8億円の追徴を受けたとされています。
この報道を機に信用が大幅に低下。秋以降は取引先への支払いに関する情報が輻輳するようになりました。
実質経営者の死去と事業継続断念
2025年11月には取引先への支払いが困難となり、さらに12月に事実上の経営者が死去したことで事業継続を断念。
12月17日に東京地裁へ破産を申請し、翌18日に破産手続き開始決定を受けました。
破産管財人には本山正人弁護士(岩崎・本山法律事務所)が選任され、「過去に実施した資金調達の方法や調達した資金の使途等や運営していたマイニングマシンの販売及び買取事業に関して、調査を行う予定」と表明しています。
>>帝国データバンク
急成長の裏にあった「ひずみ」
東京商工リサーチによると、急成長を遂げたドローンネットでしたが、設立から2年ほど経過した2019年より散発的に取引先への支払い遅延の情報が寄せられていました。
また、立替金や報酬金をめぐる訴訟の被告になるなど、好調な業績とは正反対のネガティブ情報も寄せられていたといいます。
つまり、急成長の裏では早い段階から資金繰りに問題を抱えていた可能性があります。
YouTubeやSNSで「節税」を煽った税理士・インフルエンサーの問題
ドローンネットの倒産で改めて浮き彫りになったのが、節税スキームを積極的に宣伝してきた税理士やインフルエンサーの存在です。
なぜ「ドローン節税」は爆発的に広まったのか
ドローン節税が爆発的に流行した背景には、2019年の税制改正で生命保険を活用した課税繰延効果が大幅に制限されたことがあります。
それまで法人の節税手段として定番だった「全額損金タイプ」の生命保険が使えなくなり、代替手段を求める経営者のニーズに応える形で、ドローンやLED、足場などを活用した「少額減価償却資産スキーム」が登場しました。
2021年夏から2022年にかけて、YouTubeやSNSでは「ドローン節税」を紹介する動画や投稿が溢れていました。
「決算直前でも間に合う」「10万円未満のドローンを大量購入して全額損金に」といった魅力的なフレーズで、多くの経営者や投資家を惹きつけていたのです。
特にドローン節税は、以下の点で税理士やコンサルタントにとって「売りやすい商品」でした。
- 1機あたり10万円未満なら即時全額損金算入が可能
- 決算の1〜2か月前でも導入可能という手軽さ
- ドローンスクールへのリース料でリターンも期待できるという「お得感」
- 新しいテクノロジーへの投資というポジティブなイメージ
その後の暗号資産マイニング事業も同様な感じでしたね。
「節税」を謳い文句にした情報発信の問題点
当時のYouTubeやSNSを振り返ると、一部の税理士や投資系インフルエンサーが積極的にドローン節税を紹介していました。
問題なのは、多くの情報発信において以下の点が十分に説明されていなかったことです。
リスク説明の不足
- 節税ではなく「課税繰延」に過ぎないという本質
- ドローンのリース料収入が得られなくなるリスク
- 事業者の倒産リスク(今回まさに現実化)
- 税制改正で突然使えなくなる可能性
過度に楽観的な表現
- 「確実に節税できる」
- 「リスクなく税金を減らせる」
- 「今だけのチャンス」
実際、2021年12月の段階で「大流行『ドローン節税』早くも消滅か。税理士のやり過ぎで令和4年税制改正の標的に」という記事が出ており、一部の税理士からは「やりすぎだ」という声も上がっていました。
令和4年税制改正で「封じ込め」が決定した経緯
2022年度の税制改正大綱が発表された際、少額減価償却資産の即時償却制度から「貸付けの用に供したもの」が除外されることが明記されました。
この改正の背景について、当時のメディアでは「税理士のやり過ぎが当局の目に留まった」と報じられています。
全国の税理士法人がこぞってドローン節税をフル活用し、あまりにも広範に利用されたことで、税制改正の標的になったのです。
この改正により、2022年4月1日以降は、本業がリース業でない限り、ドローンやLED、足場などを購入してリースに出すスキームは使えなくなりました。
「節税商品」を勧めた専門家の法的責任は問われるのか
今回のドローンネット倒産で、負債総額1,445億円という巨額の債権者が発生しています。
では、ドローン節税やマイニング節税を積極的に推奨していた税理士やコンサルタントに法的責任は問われるのでしょうか。
税理士の責任について
税理士が顧問先に対して適切なリスク説明を行わずに特定の商品を推奨し、その結果損害が生じた場合、損害賠償責任を問われる可能性はあります。
ポイントとなるのは、説明義務を果たしていたか、紹介料などのバックマージンを受け取っていたか、顧問先の利益よりも自己の利益を優先していなかったか、といった点です。
インフルエンサーの責任について
YouTubeやSNSで情報発信していたインフルエンサーについては、一般的な情報提供と位置づけられることが多く、個別の投資判断に対する責任を問うことは困難です。
ただし、事業者から報酬を受け取りながらPRであることを明示せずに紹介していた場合、ステルスマーケティング規制の問題が生じる可能性があります。

投資家・経営者が学ぶべき4つの教訓
今回のドローンネット倒産から、投資家や経営者が学ぶべき教訓は明確です。
1. 「節税商品」のリスクを理解する
節税を謳う商品の多くは、実際には「課税繰延」であり、将来的には税金を払う必要があります。
さらに、事業者の倒産リスク、税制改正リスクなど、複数のリスクが存在することを理解すべきです。
2. 情報発信者のインセンティブを確認する
YouTubeやSNSで特定の商品を推奨している人が、紹介料やアフィリエイト収入を得ていないか確認しましょう。
情報発信者が経済的なインセンティブを持っている場合、情報にバイアスがかかっている可能性があります。
過去には暗号資産でも同様な話がありましたね。

3. 「流行している」は危険信号
節税スキームが「流行」し始めたら、それは税制改正で封じ込められる予兆かもしれません。
ドローン節税も、足場リースも、LED投資も、流行から規制まで1〜2年という短期間で封じ込められています。
とくにユーチューバーなどインフルエンサーが騒ぎ出したら早い気がしています。
4. 本業に関係のない投資は慎重に
自社の事業と関係のない資産への投資は、リスク管理が難しくなります。
ドローン事業の実態や収益性を自分で判断できない場合、その投資判断は他者任せになってしまいます。
まとめ:「おいしい話」には裏がある
ドローンネットの倒産は、節税スキームに群がった投資家・経営者、それを煽ったインフルエンサーや税理士、そして急成長の裏で資金繰りに問題を抱えていた事業者、すべてが絡み合った結果です。
残念ながら、今後も新たな節税スキームが登場し、それを宣伝するインフルエンサーや税理士が現れ、そして税制改正で封じ込められる…というサイクルは繰り返されるでしょう。
過去にも、航空機リース、オペレーティングリース、太陽光発電、海外不動産など、様々な節税スキームが登場し、その多くが規制されてきました。
重要なのは、「おいしい話には裏がある」という基本に立ち返ることです。税金を合法的に減らす方法は限られており、「誰でも簡単に節税できる」というスキームは、そもそも長続きしないことを肝に銘じるべきでしょう。
今回被害を受けた債権者の皆様には心よりお見舞い申し上げます。
破産管財人による調査の進展を注視しつつ、この事例を教訓として、今後の投資判断に活かしていただければ幸いです。
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