節約を頑張っているのに、なぜか不安が減らない。
そんな感覚はありませんか。
この記事では、資産7億円の桐谷さんが語った優待生活の後悔を手がかりに、削ってよい支出と削ってはいけない支出の見分け方を紹介します。
読み終える頃には、明日の買い物の基準がひとつ変わるはずですよ。
節約の失敗は「使いすぎ」ではなく「使い忘れ」で起きる
結論から言うと、節約の後悔は「使いすぎたとき」ではなく「使い忘れたとき」に確定します。
節約によって、人生の選択肢まで狭めてしまうことです。
100円安い店を探す。無料券を使うために遠くまで出かける。
欲しいものがあっても「なくても困らない」と我慢する。
一つひとつを見れば、堅実で合理的な行動に映ります。
しかし、節約が習慣から目的へと変わると、判断基準が逆転します。
本来は、やりたいことを実現するためにお金を貯めるはずでした。
それなのに、いつの間にか「お金を減らさないために、やりたいことを諦める生活」になってしまうのです。
目的と手段が混同しちゃっているんですよ。
節約をしている本人は、損を避けているつもりでしょう。
実際には、お金以外の資産を使っています。
たとえば、次のようなものです。
- 安い店を探すために使う時間
- 遠方の店へ行くための体力
- 家族と予定を合わせられる機会
- 健康なうちに旅行できる期間
- 食べたいものや見たいものを選ぶ自由
これらは通帳には表示されません。
そのため、現金が減らなければ「得をした」と感じやすいのです。
ところが、時間や健康には有効期限があります。
2022年の日本人の健康寿命は、男性72.57歳、女性75.45歳でした。一方、平均寿命との差は男性8.49年、女性11.63年あります。長生きできたとしても、いつまでも同じ体力や行動力を維持できるとは限りません。
70歳で100万円を使うことと、40歳で100万円を使うことは、家計上は同じ支出です。
しかし、そのお金でできることは同じではありません。
40歳なら長距離旅行をしたり、子どもと遊んだり、新しい仕事へ挑戦したりできます。
70歳になって同じ金額を持っていても、体力、家族構成、仕事、健康状態は変わっている可能性が高いでしょう。
お金は後から使えます。
しかし、「その年齢の自分」は後から呼び戻せません。
節約で後悔する人が失っているのは、お金ではなく、お金を最も有効に使えた時期なのです。
桐谷さんが優待生活で後悔したこと
まず事実関係を整理しましょう。
桐谷広人さんは1949年生まれ、広島県出身の元プロ棋士です。
1984年に株式投資を始め、リーマンショックで大きな損失を経験したのち、配当と優待を重視する投資に転換しました。
2013年1月にテレビ番組「月曜から夜ふかし」へ初登場すると、自転車で駆け回り期限切れ寸前の優待券を使い切る姿が大人気になりましたね。
有名になったあとの徹底ぶりは、ご存じのとおりです。
保有する優待銘柄は1000を超え、食事も日用品も映画も優待でまかなう。
しかも本人が語るところでは、「優待だけで生活できるはずがない」という世間の疑いに応えるため、意地でも現金を使わない生活を続けてきたそうです
その生活は、単なるテレビ向けの演出として始まったわけではありません。
プロ棋士を引退した後、リーマン・ショックなどで資産を大きく減らし、配当だけでは家賃を払えない時期があったそうです。
その際は、株主優待でもらったQUOカードを金券ショップで売り、家賃の足しにしていました。
当時の桐谷さんにとって、株主優待は生活を支える実用品でした。
資産だけを見れば、大成功の人生に見えます。
実際、投資家としては文句のつけようがありません。
病気で後悔
ところが2026年7月27日放送の同番組で、桐谷さんは前立腺がんと、ステージ3の大腸がんを公表しました。
腸を60センチ切除し、再発予防のため半年間の抗がん剤治療に入ったと報じられています。
76歳での闘病です。
その直後のインタビューで、桐谷さんはこう語りました。
「もっと現金を使ってご馳走を食べたり、温泉にでも行ったりすればよかったな」(出典:ダイヤモンド・ザイ オンライン、2026年7月)。
自分に寿命があるとは思ってもみなかった、という趣旨の言葉も添えています。
かに道楽には株主優待がなかった
象徴的な逸話があります。
桐谷さんの大好物はカニです。
ところが、かに道楽には株主優待がありません。
だから十数年、自分のお金では一度も行っていないと、2025年に本人がSNSで明かしています。
7億円の資産家が、数千円のカニを我慢し続けたわけです。
笑い話に見えるかもしれません。
でも、これを「桐谷さんは特殊な人だから」で済ませると、学べるものを全部捨てることになります。
優待生活の後悔は、規模こそ極端でも、構造は私たちの家計とまったく同じだからです。
なぜ節約は目的化してしまうのか
節約が行き過ぎる原因は、性格だけではありません。
人間の意思決定には、得をしたい気持ちよりも、損を避けたい気持ちを強く感じる傾向があります。
現金を1,000円使えば、財布から1,000円が減ります。
一方、1,000円分の株主優待券を使わずに失効させても、銀行口座の数字は変わりません。
経済的には、どちらも1,000円分の価値を失っています。
それでも、現金を払う方が痛く感じられるのです。
株主優待券を持つと選択が変わってしまう
株主優待券やクーポンを持っていると、本当に行きたい店より、券を使える店を選びやすくなります。
消費者行動の実験でも、ある商品のクーポンを所有しているだけで、その商品を競合商品より好む傾向が確認されています。
つまり、優待券は支払いを助けるだけではありません。
私たちの選択そのものを変える力を持っています。
「今日は何を食べたいか」ではなく、「どの優待券の期限が近いか」で店を選ぶ。
「どこへ旅行したいか」ではなく、「どの施設が割引になるか」で行き先を決める。
この状態が続くと、お金を使わずに済んだ満足感は得られても、自分の希望をかなえた満足感は減っていきます。
お金を別々の財布として扱う
行動経済学には「メンタルアカウンティング」という考え方があります。
人はお金を完全に同じものとして扱わず、「生活費」「投資利益」「ポイント」「臨時収入」など、頭の中で別々の財布に分けて管理するという理論です。
現金、配当金、株主優待券、ポイントは、本来なら目的に応じて交換可能な経済価値です。
ところが、頭の中で別の財布に入ると、「現金は使いたくないが、優待券なら使ってよい」という判断が生まれます。
その結果、現金を守るために、時間や体力を余分に使うことがあります。
片道30分かけて500円の優待券を使いに行けば、500円の現金は残ります。
しかし、往復1時間と交通費を含めれば、本当に得をしているとは限りません。
節約がアイデンティティーになる
さらに厄介なのが、「私は無駄遣いをしない人だ」という自己イメージです。
節約は褒められやすい行動です。
貯金額が増えれば成果も見えます。
浪費家から倹約家になることは、一般的には望ましい変化でしょう。
しかし、節約が自分らしさになると、使うべき場面でも使えなくなります。
外食を楽しんでも「贅沢をしてしまった」と感じる。
旅行へ行っても、ホテル代が気になって楽しめない。
家事代行を頼めば楽になるのに、「自分でできることにお金を払うのはもったいない」と我慢する。
節約のルールを破った罪悪感が、支出から得られる満足を削ってしまうのです。
やってはいけない節約は「人生の残高」を減らす
すべての節約が悪いわけではありません。
通信費、保険料、使っていないサブスクリプションなど、満足度をほとんど落とさずに固定費を削れる節約は、積極的に取り組む価値があります。
問題は、節約額より大きなものを失っているケースです。
ここでは、やってはいけない節約を5つに整理します。
健康を削る節約
健康診断を受けない。
歯の治療を先送りする。
暑くてもエアコンを使わない。
栄養より値段だけで食事を選ぶ。
これらは、支出を将来へ先送りしているだけかもしれません。
体調を崩せば、治療費だけでなく、働けない期間や家族の負担も発生します。
健康は、将来お金を使うための土台です。
老後資金を十分に貯めても、健康状態によっては使い道が医療や介護に限られてしまいます。
時間を安売りする節約
10円安いガソリンスタンドへ行くために、遠回りをする。
送料無料にするため、必要のない商品を探す。
数百円のポイントを得るため、複雑なキャンペーン条件を何時間も調べる。
節約額だけを見ると得に感じます。
しかし、そのために使った時間にも価値があります。
1時間かけて500円を節約した場合、その1時間を500円で売ったのと同じです。
本人がゲーム感覚で楽しんでいるなら問題ありません。
ストレスを感じながら続けているなら、一度計算し直した方がよいでしょう。
人間関係を削る節約
友人との食事を断り続ける。
家族旅行を「高いから」という理由だけで延期する。
冠婚葬祭や贈り物を、すべて損得で判断する。
人との関係には、同じメンバーで同じ時間を過ごせる期限があります。
子どもはいずれ成長します。
親は年を取ります。
友人も転勤や病気などで、いつでも会えるとは限りません。
お金は再び稼げますが、その年の家族との時間は再購入できません。
無料や優待に行動を支配される節約
無料券を使うために、欲しくないものを注文する。
優待期限が近いから、行きたくない施設へ出かける。
ポイント還元率だけで店や決済手段を選ぶ。
これは「無料だから得」なのではありません。
自分の時間や選択権を対価として支払っています。
株主優待は企業側の判断で変更・廃止されることもあります。
日本取引所グループも、2025年3月末を基準日とする進呈を最後に株主優待制度を廃止しました。
優待は、行きたい店や欲しい商品に使える場合に価値があります。
優待を使うこと自体が目的になったら、主客が逆転しています。
体験を老後まで先送りする節約
「老後になったら旅行へ行く」
「仕事を辞めたら趣味を始める」
「もっと資産が増えたら楽しむ」
このような計画は、一見すると合理的です。
しかし、総務省の2025年家計調査では、二人以上世帯の月平均消費支出は、世帯主が50~59歳の世帯で36万7,643円、70歳以上では26万4,332円でした。
世帯人数などの条件が違うため単純比較はできませんが、年齢が上がれば自動的にお金を使えるようになるわけではないことが分かります。
老後に時間ができても、体力や意欲が残っているとは限りません。
将来へ先送りしているのは、支出ではなく、人生そのものかもしれないのです。
削ってよい支出の判定表「かに道楽マトリクス」
節約の成果を、預金残高だけで評価してはいけません。
二つの軸で仕分けます。
縦軸は、その支出で得られる経験に賞味期限があるか。
横軸は、金額が大きいか小さいかです。
| 金額が小さい | 金額が大きい | |
|---|---|---|
| 経験に期限がある | 【かに道楽ゾーン】即、解禁する | 【予算化ゾーン】計画して前倒す |
| 経験に期限がない | 【自由ゾーン】好みで決めてよい | 【主戦場ゾーン】ここを削る |
順に説明しますね。
かに道楽ゾーン
かに道楽ゾーンは、数千円から数万円で買えるのに、できる期間が限られている経験です。
親を誘う食事、旧友との一杯、子どもと行く夏祭り、健康なうちの温泉。桐谷さんが悔やんだのは、まさにこの象限でした。
金額が小さいせいで「いつでもできる」と錯覚しやすく、後悔の生産地になります。見つけたら節約対象から外してください。
予算化ゾーン
予算化ゾーンは、期限はあるが高額な経験です。家族での海外旅行や、体力のいる挑戦がここに入ります。
衝動で使う話ではなく、「何歳までにやるか」を決めて積み立てる話です。
期限から逆算した瞬間、それは浪費ではなく計画になります。
自由ゾーン
自由ゾーンは、期限も金額も小さい支出。
コンビニのコーヒーの類いですね。
削っても人生は壊れませんが、削っても大して貯まりません。好みの問題です。
ただし、この部分もチリツモの部分もあり、ラテマネーなどと言われて問題になりがちです。

主戦場ゾーン
そして主戦場ゾーン。
期限のない大きな支出、つまり通信費、保険、住居費、車、税金や社会保険料の支払い方法です。
ここは来月やっても損しない代わりに、一度直せば効果が何年も続きます。
当ブログでお得な払い方を毎年しつこく書いているのは、節約の火力はここに集中させるべきだと考えているからなんですよ。
まとめると、設計はこうなります。
主戦場ゾーンで浮かせたお金を、かに道楽ゾーンと予算化ゾーンに流し込む。我慢の総量を増やさずに、後悔の在庫だけを減らす。
これが優待生活の後悔から逆算した、節約の正しい配線図です。
2471万円を残して死ぬ国
ここで、読者の頭に浮かんでいるはずの反論を処理させてください。
「老後が不安だから貯めているのに、使えと言われても困る」という反論です。
もっともな不安です。
多くの人はお金を使い切れない現実
ただ、統計は少し違う景色を映しています。
世帯主が70歳以上の二人以上世帯は、平均2471万円の貯蓄を持っています(出典:総務省「家計調査(貯蓄・負債編)」2025年平均)。
日本の家計金融資産2239兆円のうち、約6割を60歳以上が保有しているという推計もあります(出典:日本銀行「資金循環統計」2025年4〜6月期、保有割合は日本経済新聞推計)。
取り崩すはずだった老後になっても、多くの人は使い切れていない。
それが日本の現実です。
しかも、使うために必要なのはお金だけではありません。
健康寿命は意外と短い
元気に動ける期間を示す健康寿命は、男性72.57歳、女性75.45歳。
平均寿命との差は男性で約8.5年、女性で約11.6年あります(出典:厚生労働省、2022年値)。
旅行や食事を楽しむ体力には、寿命より一足早く期限が来るわけです。
DIE WITH ZEROの考え方
この構造に正面から挑んだのが、米国の投資家ビル・パーキンスの著書「DIE WITH ZERO」です。
主張は明快で、資産の最大化ではなく経験の最大化を人生の目的に置き、お金は使い切って死のうというもの。
若いうちの経験は思い出として何十年も配当を生み続けるから、経験への支出は早いほど有利だと説きます。
私自身、この本を読んでから、家計の年間の締め方を一つ変えました。
年末に貯蓄額を確認するついでに、「今年しかできなかった経験」を書き出すようにしたのです。
初年度は、これが情けないほど書けませんでした。
残高は前年より増えているのに、期限つきの経験は数行。
帳簿の上では黒字なのに、桐谷さんと同じ在庫切れへ向かっていると突きつけられた気分でしたね。
以来、わが家では大きな出費の相談のたびに「それは来年でもできるか」とだけ問うことにしています。
墓場にお金は持っていけない、とはよく言われます。
ただ、裏返せば持っていけるものもあるのです。
思い出は、最後の日まで残ります。
桐谷さんも、闘病中の支えは治ったらあれをしたいという楽しみだと語っています。
貯蓄とは、本来その楽しみを買うための手段だったはずです。

まとめ
最後に、この記事を読んだ今日のうちにできることを一つだけ提案します。
家計簿に費目を足す話ではありません。
あなたのかに道楽ゾーンを、一つ特定してください。
やり方は簡単です。
「親と旅行に行けるのは、あと何回か」のように、大事な経験を一つ選んで残り回数を数えるだけ。
仮に親御さんが70歳で、年1回会うなら、健康寿命まで残りは数回しかありません。
回数に直すと、「いつでもできる」がいかに錯覚だったか分かります。
数え終えたら、その一回分の予算を今月の節約対象から外す。
ここまでで作業は終わりです。
一方で、誠実にお伝えしたい注意もあります。
この考え方が向かない局面があるからです。
生活防衛資金(生活費の半年から1年分)がまだない方や、収入が不安定な方は、先に主戦場ゾーンの節約と貯蓄を固めるのが先決です。
DIE WITH ZEROの著者自身、老後資金の手当てが前提だと繰り返しています。
また、桐谷さんのような優待株投資には、優待の廃止や株価下落のリスクが常にあります。
この記事は特定の銘柄や投資手法をおすすめするものではありませんので、投資判断はご自身の状況に合わせてください。
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