2025年12月、いわゆる「投資系インフルエンサー」の女性が監禁され、約1,500万円相当の暗号資産を奪われる事件が報じられました。
容疑者らは「投資詐欺をしている」「お前のせいで女性が2人自殺している」などと因縁をつけ、「今から海に沈めに行く」と脅しながら暗号資産の送金を強要したとされています。
事件そのものは、強盗致傷や監禁などの重大犯罪であり、どんな事情があっても正当化されるものではありません。
ただ、投資家の立場から見ると、「投資系ユーチューバー」「投資系インフルエンサー」との付き合い方や、暗号資産の持ち方について考えさせられる出来事でもあります。
今回のように、短時間で命の危険と資産喪失が同時に迫ってくるケースは、まさに投資家として最悪のシナリオです。
この記事では、事件の概要を整理しつつ、私たち個人投資家が「どこに気をつけるべきか」を落ち着いて考えていきます。
事件の概要:投資系インフルエンサーが監禁され暗号資産を奪われた
まずは今回の事件の概要からみていきましょう。
どこで何が起きたのか
報道を整理すると、事件の流れは次のようにまとめられます。
- 被害者はSNSで投資情報を発信する32歳の女性インフルエンサー
- 2025年6月ごろ、名古屋市西区の駐車場で男らに車へ押し込まれ、後部座席で監禁
- 車内で首を絞められるなどの暴行を受け、「お前のせいで女性が2人自殺している」「今から海に沈めに行くか、誠意を見せるか」などと脅される
- 携帯電話のアプリを使って、約1,500万円相当の暗号資産を送信させられる
- 愛知県大治町まで連れて行かれ、翌日になって女性は解放される
- その後、指示役とみられる大阪市在住の自営業の男ら4人が、強盗致傷などの疑いで逮捕
警察は容疑者らの認否や、動機の詳細についてはまだ明らかにしていません。
ただ、少なくとも現時点の情報を素直に読めば、「投資詐欺への制裁」という名目をまといながら、実態は金銭目的の強盗事件だったと見るのが自然でしょう。
今の時点では犯人が言っている女性2人が自殺した投資詐欺が実際にあったのかは不明です。
なぜ「投資系インフルエンサー」が狙われたのか
被害者の女性は、日ごろからSNSで投資情報を発信していたと報じられています。
投資系インフルエンサーは、次のような意味で「狙われやすい立場」になりがちです。
1つ目は、お金に関する情報を発信しているがゆえに、「稼いでいる」「怪しい儲け方をしているのでは」といった嫉妬や怨恨の対象になりやすいこと。
自分から資産を公開している人も多いですしね。
2つ目は、フォロワーとの距離が近く、オフラインで会う機会が生まれやすいこと。
投資相談会やオフ会、セミナーなど、リアルな場に出ていくほど、良い意味でも悪い意味でも人間関係が濃くなります。
3つ目は、暗号資産など「即時送金できる資産」を扱っているケースが多いことです。
パスワードさえ聞き出せば、その場で送金を強要できてしまう構造自体が、犯罪者にとっての「ターゲットのしやすさ」につながります。
暗号資産と投資系インフルエンサーに潜む3つのリスク
次にリスクについて考えてみましょう。
暗号資産は「一瞬で奪われる資産」になり得る
今回の事件で、容疑者らは女性のスマートフォンから暗号資産を送信させたと報じられています。
銀行預金であれば、キャッシュカードと暗証番号が必要ですし、不正送金が発覚すれば補償制度があるケースもあります。
一方、多くの暗号資産は、秘密鍵やウォレットにアクセスできてしまえば、どこの誰に送ったのか追いづらく、後から取り戻すことも極めて困難です。
暗号資産自体が悪いわけではありませんが、「物理的に拘束され、脅されながら操作させられると、一気に全額を失う」というリスクは、株式や投資信託と比べて格段に大きいと言えます。
オフラインの付き合いが思わぬリスクになる
投資系ユーチューバーやインフルエンサーは、フォロワーとの距離を縮めるため、オフ会やセミナーを開催することがあります。
そこ自体は悪いことではありません。
私も過去には参加したこともあります。
cisさんと実際に会ったり、有意義な部分が多かったです。
しかし、イベントや打ち上げのあと、少人数で二次会に行く、車で送ってもらうといった流れの中で、今回のような「人気のない場所でのトラブル」に巻き込まれるリスクはどうしても高まります。
普段から「画面越しに見ていた人」と実際に会うと、心理的なガードが緩みやすくなります。
とくに、投資で損をした側が一方的な恨みを募らせている場合、感情的な衝突から一気に危険な状況に転じることもあり得ます。
「正義の制裁」を名乗る人の危うさ
今回の事件でも、「投資詐欺をしている」「お前のせいで女性が2人自殺している」といった発言があったと報じられています。
本当に被害があったかどうかは、これから捜査や裁判で明らかになっていく部分です。
ただ、いずれにせよ、私刑的な「制裁」を加える権利は誰にもありません。
SNSでも、投資系インフルエンサーに対して「詐欺師だ」「被害者を救うために制裁を加えるべきだ」といった過激な言説が飛び交うことがあります。
こうした雰囲気に影響され、「自分こそが正義だ」と思い込んで暴走すると、今回のように取り返しのつかない重大犯罪につながってしまいます。
投資系インフルエンサー、ユーチューバーはどこまで信用できるのか
そもそも投資系インフルエンサーを信じて良いのでしょうか?
情報と人格を切り分けて見る
「投資系ユーチューバー」「投資系インフルエンサー」は、ここ数年で一気に増えました。
動画やSNSで手軽に情報を発信できるようになった一方で、その情報の質には大きなばらつきがあります。
銀行や金融庁も、YouTubeやSNSの投資情報に安易に飛びつく危険性を指摘しています。
大事なのは、「その人の話が参考になるか」と「その人を人としてどこまで信頼するか」を切り分けることです。
投資のアイデアとしては参考にしても、オフ会で個人的に会うか、資産の状況を詳しく話すか、さらにお金のやり取りをするかは、まったく別の次元の話です。
「投資系インフルエンサーが怪しい」と感じたときのポイント
「投資系インフルエンサー 怪しい」と検索する人が増えているのは、それだけ不安を感じている証拠でもあります。
私自身、相談を受ける中で「このパターンは危ないな」と感じる特徴はいくつかあります。
短期間で「絶対に儲かる」と強調する
「誰でも月利◯%」「元本保証」「損失は出ない」「絶対儲かる」「誰でも儲かる」といった言葉が並ぶ投資話は、金融庁や警察も繰り返し注意喚起しています
投資である以上、リターンとリスクはセットです。
断定的な表現を多用する発信者は警戒が必要。
リスク説明が極端に薄い時点で、かなり赤信号に近いと考えたほうが安全です。
YouTubeやXから、すぐLINEや少人数グループに誘導する
公式サイトではなく、いきなり個人LINEグループや少人数のチャットに誘導し、「ここだけの情報」「残り◯名」という形で心理的に急がせる手口は、SNS型投資詐欺の典型例として挙げられています。
Xでよく見かけるのは短期的に儲かっている(ように見せる)→LINEグループへという流れです。
あくまで「公開情報の範囲で完結する発信」なのか、「クローズドな場で高額商品を売りつけるのか」は、見極めポイントのひとつです。
金融商品取引業・暗号資産交換業の登録に触れない
FX取引の助言や、他人のお金を集めて運用する行為は、内容によっては金融商品取引業の登録が必要になります。
暗号資産の交換や管理も、登録制です。
こうした法令に一切触れず、「みんなやっているから」「海外業者だから大丈夫」といった説明しかしない場合は、かなり危険度が高いと考えたほうがよいでしょう
資産と身の安全を守るための実務的な対策
それではどう命と資産を守ればよいのでしょう?
暗号資産は「分散」と「即送金できない設計」にする
暗号資産を保有する場合、投資リスクだけでなく「強要リスク」も意識しておいたほうが安心です。
たとえば、次のような工夫があります。
- 日常的にスマホから触れるウォレットには、生活上必要な最小限だけを置いておく
- 長期保有分は、ハードウェアウォレットや別端末に分散し、その場ですべて送金させられない構造にしておく
- 2段階認証やパスフレーズの管理を、物理的にも心理的にも「一瞬では出てこない」形にしておく
完全な防御は難しいですが、「その場で一気に全財産を動かせない」状態にしておくだけでも、最悪の事態をある程度は和らげることができます。
投資系ユーチューバーとの距離感を決めておく
投資系ユーチューバーやインフルエンサーから学ぶこと自体は、悪いことではありません。
むしろ、情報収集のひとつとして上手に使っている方も多いと思います。
ただし、次のような自分なりの「距離感ルール」を決めておくと、安全度はぐっと上がります。
- 動画や投稿は参考にするが、最終判断は必ず自分で行う
- 直接会う場合でも、1対1ではなく、複数人がいる公的な場に限る
- 自分の保有資産や暗号資産の残高など、具体的な金額は話さない
- お金の貸し借りや、投資資金の預け入れは絶対にしない
このあたりは、友人や家族に対するとき以上に慎重でちょうどいいくらいです。
「怪しい」と感じたら、相談窓口を活用する
「すでに投資してしまったかもしれない」「詐欺かもしれないが、誰に相談していいか分からない」というときのために、金融庁は2024年に「詐欺的な投資に関する相談ダイヤル」を開設しています。
SNSやマッチングアプリ経由の投資話、著名人やインフルエンサーを騙る投資勧誘などについて、電話やウェブで相談を受け付けています。
また、各自治体の消費生活センターや、銀行・証券会社の相談窓口、警察の相談ダイヤル(#9110)なども活用できます。「こんなことを相談していいのかな」と思うような内容でも、早めに第三者の目を入れることで、大きな被害を防げることがあります。
情報発信する側への教訓:ビジネスと安全の設計
今回の事件は、投資情報を発信する側にとっても、他人事ではありません。
匿名性とリアルの動きをどう設計するか
投資系インフルエンサーの中には、本名や顔出しで活動する方もいれば、匿名で淡々と情報だけを発信する方もいます。
どちらが良いというより、「ビジネスのスタイル」と「安全面」が噛み合っているかどうかが重要です。
- 本名+顔出し+オフ会多数であれば、なおさら会場や移動の安全対策が必要になります
- 誹謗中傷やクレーム対応を一人で抱え込まないための体制も考えておきたいところです
投資で損をした人の中には、合理的な判断ができなくなるほど追い詰められているケースもあります。
情報発信者側も、「恨みを買いやすい商売」であることは、冷静に自覚しておく必要があります。
私も一時期、投資系セミナーの依頼がいくつも来たので、顔出し、本名で情報発信しようと考えたことはあります。
しかし、アンチ的なメールが来ることもあるので、怖いのでやめています。
特にSTEPNやメタプラネットを批判した記事を書いたときはアンチがすごかったですね・・・


「富」をひけらかさない、という鉄則
「妬み」の感情は人が想像する以上に恐ろしいエネルギーを持っています。
SNSで資産を公開すること、高級時計、高級車、タワーマンションからの夜景などをアップすることは、承認欲求を満たすかもしれませんが、同時に犯罪者への招待状にもなり得ます
儲かった自慢や資産公開をしないのがリスクを下げるポイントになりますね。
また、居住地域や日常的な行動範囲については、できる限り特定されにくい形での情報発信を心がけるべきです。
そもそもWEB上の資産公開なんて画像を細工すればなんとでもなりますので、嘘も多いんですよ。
本当の成功者は静かに暮らしているもんです。

誤解を招かない発信と、法令順守
また、投資系ユーチューバーやインフルエンサーの中には、金融商品取引法や暗号資産関連の規制に十分な理解がないまま、助言や資金集めを行ってしまうケースも見られます。
- 「あくまで一般的な情報提供なのか」
- 「特定の投資商品への勧誘なのか」
- 「投資一任に近い行為になっていないか」
このあたりの線引きが曖昧なまま事業を拡大すると、悪意がなくても法令違反に問われるリスクがありますし、結果的にトラブルの火種にもなります。
無登録で投資助言業務を行ったり、虚偽の情報を流布したりすることは、犯罪行為として処罰の対象となりえますし、恨みを当然ながらかいかねないのです。
今回の事件で犯人グループが「投資詐欺」という名目を使ったことは、投資情報発信者に対する社会的な疑念を利用した側面があります。
だからこそ、健全な活動を行う発信者は、より一層のコンプライアンス意識を持つべきです。
まとめ:インフルエンサーの善悪より、自分のリスク管理を
今回の投資系インフルエンサー監禁事件は、私たちに重要な教訓を残しました。
デジタル資産の普及と情報社会の進展は、新たな投資機会をもたらす一方で、これまでにない形のリスクも生み出しています。
物理的な暴力と最新のデジタル技術が組み合わさった犯罪は、従来の防犯意識だけでは対応しきれません。
投資家、特に一定規模以上の資産を保有する方々は、セキュリティ対策を多層的に構築する必要があります。
SNSでの情報発信は慎重に行い、暗号資産のセキュリティは複数の手法を組み合わせ、オフライン活動では常に警戒心を維持する。
この三位一体のアプローチが、現代の投資家に求められる防衛策です。
また、怪しい投資系インフルエンサーと健全な情報発信者を見極める目を養うことも、投資家自身の責任です。
甘い言葉に惑わされず、論理的思考と健全な懐疑心を持ち続けることが、資産を守る第一歩となります。
投資の世界は自己責任が原則ですが、それは無防備であっていいという意味ではありません。
適切な知識と対策を身につけ、安全に資産形成を進めていただくことを願っています。
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