2026年9月、NHKが外部委託による戸別訪問を再開しました。
ただ、慌てて玄関で財布を開く前に知っておいてほしいことがあります。
訪問員には"交渉する権限"がないということ。
本当に確認すべきなのは、あなたの契約状況と、時効の進み具合です。
結論:NHKの訪問員は「交渉役」ではない。
結論から言うと、「NHKの訪問は非弁行為だ」と言って追い返しても、法的な武器にはほぼなりません。
この論点は裁判で何度も争われています。
東京地裁の判決が令和4年に少なくとも4件あり、いずれも訪問による集金は弁護士法72条に違反しないと判断しています。
ただ、判決をよく読むと、別の事実が見えてきます。
訪問員に認められているのは、次の4つだけなんです。
- 受信料制度の説明
- 支払う意思があるかの確認
- 手続きの案内
- 任意に支払われたお金の受け取り
支払義務をめぐる交渉や、減額・免除の取り決めは、そもそも訪問員の仕事に含まれていません。
つまり、玄関先で何かを「決めさせられる」ことはないのです。
では、何が本当の分かれ道になるのか。
それは「時効」です。
契約済みで滞納している人には、5年の時効があります。
ところが、焦ってその場で一部を払うと、時効を主張できなくなるおそれがあります。
一方、未契約の人はそもそも時効が進んでいません。
放置すればするほど、将来の請求額が膨らむ構造です。
同じ「払っていない」でも、未契約と滞納では、玄関先での正解がまったく違います。
あなたはどちらに当てはまりますか。
2026年9月、NHKの個別訪問は何が「再開」されたのか
報道を丁寧に読むと、今回の再開には3つの特徴があります。
1つ目は、目的が「新規契約」であることです。
NHKは新規の受信契約を結ぶための戸別訪問営業について、外部法人への委託を再開し、今月2社と委託契約を結んで業務を始めました
2つ目は、やり方を変えていることです。
突然の訪問や対応が批判された経緯を踏まえ、事前に書面で案内を送るなど、相手の理解を得ながら進める方針です。
3つ目は、エリアと報酬です。
再開は東京・大阪・名古屋などの都市部で、他地域への拡大も検討中です。
報酬は廃止前より少額ですが、成果に応じた支払いもあるとされています。
ちなみに、NHKは訪問への批判や経費削減を理由に、2023年9月までに受信契約のための訪問営業の法人委託を全廃していました。
わずか3年での方針転換です。
NHK党が壊滅寸前になっていることも大きいのでしょう。
背景にあるのは、はっきりした数字です。
2025年度決算で、NHKの事業収支差金は318億円の赤字でした。
赤字は3年連続で、受信料収入は5,851億円と7年連続で減っています。
未納割合76.9%
次にNHK受信料の未納割合を見てみます。
2025年度末の推計世帯支払率は全国で76.9%でした。
| 指標 | 2025年度末 |
|---|---|
| 受信契約対象世帯数 | 4,530万件 |
| 世帯契約数 | 3,656万件 |
| 世帯支払数 | 3,485万件 |
| 推計世帯支払率 | 76.9% |
地区別で見ると東京は65.6%、大阪は63.9%、最低の沖縄は46.3%です。
全国で約4世帯に1世帯が払っていない計算ですね。
ここで、もう1つの数字を重ねます。
滞納は4%
契約済みで滞納している件数は2024年度末で174万件、受信契約数4,067万件の4%です。
分母が違うため単純比較はできません。
それでも、払っていない約23%のうち、滞納は一部にすぎないことが分かります。
つまり、未払いの大きな部分は「滞納」ではなく「未契約」だと推測できます。
今回の訪問が「新規契約」を狙う理由は、ここにあります。
都市部の支払率が低い理由について、NHKは世帯の移動の多さや、単身世帯・共同住宅が多く面接しにくいことを挙げています。
会えない相手に会いに行く。
それが今回の再開の正体です。
NHKの個別訪問は非弁行為にあたるのか?
私が今回、特に掘り下げたいと思ったのが、「NHKの委託会社が未払い受信料を請求することは、非弁行為ではないのか」という疑問です。
他人の債権を回収する仕事には、資格の問題があるはず。
それなのに、NHKの訪問なら問題にならないのか。
ここは印象だけで判断せず、条文と資料を確かめたいところでした。
非弁行為:弁護士法72条とは
まず条文を確認しておきましょう。
弁護士法72条は、弁護士でない人が報酬目的で、法律事件に関する代理・和解などの法律事務を業として扱うことを禁じています。
これが「非弁行為」です。
非弁行為について詳しくはこちらの記事で取り上げております。

国会でも取り上げられた
「弁護士でもない委託業者が、滞納した受信料を取り立てている。これは非弁行為ではないか」という主張は、国会でも取り上げられました。
2020年、参議院で質問主意書が出されています。
政府の答弁書は、違反かどうかは個別具体的な事実関係に即して判断されるべきで、答えるのは困難だとするにとどまりました。
政府は白黒をつけなかったわけです。
訪問収納を非弁行為としなかった裁判例もある
判例タイムズ社の公開目次では、東京地裁2022年1月24日判決が紹介されています。
その要旨は、長期未収者への個別訪問による収納業務が、弁護士法72条の対象となる法律事件に当たらないとしたものです。
ただし、これは具体的な事件についての判断。
現在の訪問業務すべてを適法と保証するものではなく、ここでは判決全文を確認したものとして扱っていません。
実際の対応では、次のように行為を具体化すると論点が見えやすくなります。
| 訪問時の行為 | 確認する論点 |
|---|---|
| 制度や支払方法の説明 | 説明・案内の範囲にとどまるか |
| 支払義務を争う相手との条件交渉 | 紛争に関する代理・和解等に踏み込んでいないか |
| 強い言葉や執拗な対応 | 非弁行為とは別に、訪問態様の問題がないか |
「弁護士ではないから帰って」で、受信料の問題まで解決するとは考えないほうがよいでしょう。
反対に、受信料を払う義務がある人でも、訪問対応への不満を申し出ることはできます。
請求の正しさと対応の適切さを、それぞれの根拠で確かめる姿勢が必要です。
知っておきたい時効問題
NHK受信料の問題で特に知っておきたいのが時効の問題です。
滞納者:5年で時効、ただし一部払いに注意
契約済みで滞納している人から見ていきます。
受信料債権の消滅時効期間は5年で、時効期間が過ぎた分は、援用(時効を主張する意思表示)をすれば支払いを拒めます。
地上契約の月額1,100円で計算すると、5年分は66,000円です。
10年滞納していても、援用すれば請求は直近5年分に絞れる可能性があります。
ただし、落とし穴があります。
時効完成後に一部を支払うと、時効を援用できなくなることがあります。
訪問員に応じて払う前に、どの期間が時効を過ぎているか確認すべきです。
「とりあえず今日は1万円だけ」。
これが一番危ない行動かもしれません。
未契約者:時効のカウンターが動いていない
未契約の人は、事情がまったく違います。
最高裁大法廷の2017年12月6日判決は、未契約者について、契約成立前には受信料債権を行使できないとしています。
判決で契約が成立する場合も、契約成立前から受信料の時効が進むという考え方を採りませんでした。
そのため、「契約せずに長く待てば、請求は最近の5年分に限られる」という理解は危険。
適用される規約や設置時期によって、さらに前の期間分が請求対象になり得ます。
未契約者向けの記事なのに、契約済み滞納者の時効だけで説明していたら、その情報を自分に当てはめてよいか疑ってみてください。
私が以前の記事で「時効の逆転現象」と呼んだのは、この構造です。
15年前にテレビを設置したケースでは、契約済みで滞納なら5年分の66,000円、未契約で放置なら最大15年分の198,000円になり得ます。
放置した人ほど不利になる。
ここが直感に反するところです。

NHKの請求を放置するとどうなる?
受信料の請求で怖いのは、内容を確認しないまま、「全額払うしかない」「無視すればよい」のどちらかに振り切れてしまうことです。
未契約と滞納では、負担が増える仕組みも異なります。
割増金と延滞利息を、同じものとして扱わないようにしましょう。
「未払いなら全員3倍」ではない
割増金は、不正な手段で支払いを免れた場合や、正当な理由なく申込期限を過ぎた場合などが対象。
対象期間の受信料に、その2倍の割増金が加わるため、その部分は合計3倍になり得ます。
ただし、割増金の対象期間は2023年4月以降。単に支払いが遅れた人全員に、自動的に3倍を請求する制度ではありません。
NHKも個別事情を考慮して運用すると説明しています。
契約済みの滞納には、別途、受信規約の延滞利息の規定があります。
請求総額だけを見るのでなく、通常の受信料、割増金、延滞利息のどれなのかを明細で確認する必要があるわけです。

訪問と裁判所の書類は、対応の優先度が違う
NHKは2026年1月、同年度の支払督促を全都道府県で実施し、年間2,000件を超える規模に拡大する予定を公表しました。
これは計画であり、すでに実施した年間件数ではありません。
訪問員への対応を保留することと、裁判所からの書類を放置することは区別してください。
支払督促を受け取ってから2週間以内に異議を申し立てない場合、相手方は仮執行宣言を申し立てられます。
その後、強制執行につながる可能性もあります。
書類名と期限を確認し、争う事情があるなら早急な対応が必要です。
玄関先では、判断に必要な情報を受け取る
突然訪問されても、すべてをその場で判断する必要はありません。
インターホン越しに所属、氏名、用件を確認し、請求対象の期間と内訳を書面でもらう、といった対応が考えられます。
たとえば、次のように伝える方法です。
契約状況と請求期間を確認したいので、内訳を書面でお願いします。確認後、NHKの公式窓口に連絡します
これは、支払いを一律に拒むための言葉ではありません。
誤った契約や、内容を理解しない約束を避けるための確認です。
説明に不審な点があれば、自分で調べた公式窓口に照会する。
対応に問題を感じたときは、日時や発言を記録する。
相手を言い負かそうとするより、後から確認できる情報を残すほうが役立ちます。
なぜNHKはスクランブル化せず、人を玄関に送るのか
ここまで読むと、「見たい人だけが契約する仕組みにすればよいのに」と感じる人もいると思います。
スクランブル化とは、契約者などに視聴を限定する仕組みです。
受信料への不満を考えるうえで、避けて通れない論点ですね。
では、なぜNHKはそうしないのか。
NHKは受信料を「番組ごとの利用料金」と考えていない
NHKは公式説明で、受信料を公共放送の運営財源と位置づけています。
特定の勢力や視聴率に左右されず、教育・福祉などの番組も届けるための負担という説明です。
しかし、実際は政権のプロパガンダになっている印象が強いです。
政府も2019年の答弁書で、視聴の対価として料金を払う仕組みでは、公共放送の使命を果たすことが困難になるとの考えを示しました。
これは当時の政府見解であり、技術的に不可能だと説明したものではありません。
つまり、議論の中心は「どう映像を止めるか」より、「誰が何の費用を負担するか」にあります。
利用者の感覚は、見た番組への支払い。
一方、制度の説明は、放送を提供し続ける仕組みへの負担。
この認識のずれが、不満の一因になっていると私は考えます。
公共性を説明すれば、今の制度でよいのか
ただし、公共的な役割があることと、現在の業務範囲や徴収方法が最適であることは別問題です。
たとえば、「災害や基礎的な報道は広く提供し、その他を任意契約にする」という制度案は検討できます。
その場合も、どこまでを公共的な業務とするか、その費用を誰が支えるかが残るはず。
税金で支える場合には政治との距離が論点になります。
任意契約を中心にするなら、契約数が変動した際の財源や、採算が取りにくい番組の扱いを考える必要があるでしょう。
これは特定の案の実施が決まっているという話ではなく、制度を比較するための視点です。
「スクランブルにすればすべて解決」「公共放送だから変更できない」と、両端に寄せすぎないほうが議論は進みます。
訪問で契約が増えても、納得が増えるとは限らない
私が訪問再開で気になるのは、この点です。
徴収の取り組みを強めれば、支払っている人が感じる不公平を減らす効果は期待できます。
しかし、費用の使い道に納得していない人に、手続きの説明だけを増やしても、理解が深まるとは限りません。
経営を見る立場として、評価したいのは契約数だけではなく、必要な費用、訪問の負担、視聴者の納得まで含めた成果です。
集め方の改善と、負担してもらう理由の説明。
その両方があってこそ、制度の持続性につながると考えています。
個人的な意見
以前の記事でも書きましたが、私自身はNHKをほとんど見ません。
特に昨今はニュースさえかなり偏っているのを感じています。
そのため、見るのは災害時のニュースくらいです。
ですから、緊急放送だけなら月100円程度でいい、というのが率直な気持ちです。
大金を掛けて作ったと思われる朝ドラも大河ドラマもバラエティーもまったく見ないので、見る人だけ払ってくれるスクランブル化は大賛成なんですよ。
今のNHKにNetflixより高い金額を払う価値があるとは思っていません。
ただ、制度への不満と、今の制度のもとで損をしない行動は、分けて考える必要があります。
まとめ
NHKの戸別訪問再開は、2026年9月時点では都市部の新規契約が中心です。
ただ、他地域への拡大も検討されています。
ポイントを振り返ります。
- 訪問は非弁行為として追い返せる、という主張は判例で認められていない
- 訪問員の業務は「説明・確認・案内・受け取り」までで、交渉はしない
- 滞納者は5年の時効があるが、一部払いで援用できなくなるおそれがある
- 未契約者は時効が進まず、放置するほど将来の請求が膨らみ得る
私は、制度に疑問を持つことと、自分の権利や家計を守ることは両立できると考えています。
納得できない点は根拠をもって問う。
同時に、自分の手続きや期限も確認する。
そのための整理に、この記事を役立ててもらえればと思います。
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