2025年12月17日に東証プライムへ再上場予定のSBI新生銀行(証券コード:8303)のIPOが、いよいよ大詰めを迎えています。
12月8日には、公募価格が仮条件上限いっぱいの 1株1,450円 に決定しました。
ブックビルディングでは公開株数を上回る需要が集まり、最上限での価格決定となっています。
公開価格ベースの想定時価総額は 約1兆2,980億円、オーバーアロットメント(OA)を含めた吸収金額は 約3,700億円弱 と、2025年最大級の大型案件です。
この記事では、
- 最新の公募価格・吸収金額
- ロックアップや大株主構成
- 業績・バリュエーションの水準
- 短期〜中長期の投資スタンス
といったポイントを整理し、「SBI新生銀行のIPOは買いか?」を考える材料をまとめます。
※公募価格が決定しましたので追記しました
SBI新生銀行 IPOの基本情報を整理
まずはSBI新生銀行のIPOの基本情報を確認しておきましょう。
上場スケジュールと市場
SBI新生銀行の上場スケジュールは、現時点で次のように予定されています。
- 上場日:2025年12月17日(水)
- 市場:東証プライム
- 業種:銀行業
- 単元株数:100株
ブックビルディング・申込期間はすでに進行中/終了済みです。
- 仮条件決定日:12月1日
- ブックビルディング(需要調査)期間:12月2日〜12月5日
- 公募価格決定日:12月8日(1,450円で決定)
- 購入申込期間:12月9日〜12月12日
記事執筆時点(12月9日)は、公募価格決定直後〜購入申込期間中 というタイミングです。
公募価格1,450円と吸収金額
当初は有価証券届出書ベースで「想定発行価格1,440円」とされ、
- 想定時価総額:約1兆2,895億円
- 想定吸収金額:約3,676億円(OA込み)
という規模感でした。
その後のブックビルディングを経て、仮条件1,440〜1,450円の上限である1,450円で公募価格が決定。公開価格ベースでは、概ね以下のイメージになります。
- 公募価格:1,450円
- 公開価格ベース時価総額:約1兆2,980億円
- 公開価格ベース吸収金額:
- OA込み:約3,701.8億円
- OA除き:約3,200億円強
いずれにしても、2025年のIPOの中でJX金属に次ぐ「今年2番目の大型案件」 という位置づけです。
公募株数・売出株数・オファリングレシオ
公募・売出の内訳は次のようになっています。
- 公募株数(新株発行+自己株処分):89,000,000株
- 売出株数(国内・海外合計):133,000,000株
- オーバーアロットメント(OA):33,300,000株
- 上場時発行済株式総数:895,500,000株
想定価格ベースでは、
- 公募比率:約9.9%
- 売出比率:約18.6%
- オファリングレシオ(上場時発行済株式数に対する公募+売出+OA):約28.5%
とされており、「既存株主による売出しの比率が高い大型再上場案件」といえます。
主幹事・幹事証券会社
今回のIPOは、主幹事・幹事も非常に豪華な布陣です。
ジョイント・グローバル・コーディネーター/共同主幹事
- 野村證券
- SBI証券
- みずほ証券
- ゴールドマン・サックス証券
- SMBC日興証券
- BofA証券
共同主幹事(国内募集・売出し)
- 上記に加え:大和証券
幹事・取り扱い証券(国内)
- 岡三証券
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
- 松井証券
- 岩井コスモ証券
- 極東証券
- Jトラストグローバル証券
- 東洋証券
- 水戸証券
- むさし証券
- ほか、ネット証券各社(大和コネクト証券、SBIネオトレード証券、DMM株など)
公開株数が非常に多いため、当選本数も150万枚超クラス と推計され、個人投資家にとっては「比較的当たりやすい大型IPO」に分類されます。
大株主構成とロックアップ
大株主とロックアップの状況は、おおまかに次のような構図です。
- SBI地銀ホールディングス:持株比率 約60.75%(ロックアップ180日)
- SBIホールディングス:持株比率 約38.19%(ロックアップ180日/一部売出あり)
- 経営陣ほか:ごく少数、継続保有
ロックアップ期間は、上場日から180日間(2026年6月中旬まで) で、価格条件付きの解除条項は設けられていません。
親会社・グループ内での大規模な売り出しが上場直後に出てくる可能性は限定的であり、これは 中長期的な株価の安定要因 になります。
株主優待
現時点で、SBI新生銀行が株主優待制度を導入する情報は確認できていません。
一般的に、銀行株で株主優待を実施している企業は少数派です。
地方銀行の中には、定期預金金利の優遇や自社グループのサービス割引などを優待として提供している例もありますが、メガバンクや大手金融機関では優待制度を設けていないケースが大半です。
SBI新生銀行についても、少なくとも上場時点では株主優待制度の導入は見込まれていないと考えるのが妥当でしょう。
投資判断においては、配当利回りを重視することになりますね。
ただし、SBIグループは自社商品(サプリメントなど)や暗号資産などを株主優待として提供してたりもしますので、同様な株主優待が設定される可能性もあります。
配当政策と利回り予想
2026年3月期の配当予想は1株当たり34円 となっています。
想定価格1450円での配当利回りは2.3% です。
銀行株の配当利回りとして2.36%は、決して高い水準ではありません。
メガバンク3行の配当利回りは概ね3〜4%台で推移しており、それと比較すると見劣りする数字です。
ただし、注目すべきは配当の成長性です。
同行は公的資金返済という重荷から解放され、今後は株主還元を強化できる環境が整いました。
配当性向(利益のうち配当に回す割合)を段階的に引き上げていく方針が示されれば、中長期的な配当成長が期待できます。
2025年3月期には資本剰余金を原資とする1000億円の配当を実施しており、株主還元姿勢は明確です。
今後の配当政策の方向性を、経営陣のIR説明会などで確認することが重要です。
SBI新生銀行の歴史的背景
次にSBI新生銀行の歴史も確認しておきましょう。
かなり波乱万丈な形となっています。
日本長期信用銀行〜新生銀行〜SBI新生銀行への変遷
SBI新生銀行は、戦後の「日本長期信用銀行」を源流とし、その後の金融危機と公的資金注入を経て、「新生銀行」として再スタートした歴史を持つ銀行です。
同行には当時約3700億円もの公的資金が注入され、その返済が長年の経営課題となってきました。
その新生銀行に対して、SBIホールディングスが2021年にTOB(株式公開買付)を実施し、グループ入り。
2023年には非上場化し、上場廃止となりました。
当時3500億円の公的資金を抱えており、上場を維持した状態では返済が困難という判断でした。
そして2025年7月、ついに公的資金の完済を実現し、今回の再上場へとつながります。
つまり今回のIPOは、単なる新規上場ではなく、四半世紀にわたる日本の金融システム再建の歴史に一つの区切りをつける象徴的な出来事なのです。
公的資金完済と「第4のメガバンク」構想
SBIグループは、地方銀行を束ねたSBI地銀ホールディングスとともに、「第4のメガバンク構想」を掲げています。
SBI新生銀行はその中核として、
- 法人向け融資・ストラクチャードファイナンス
- 住宅ローンやカードローン「レイク」などの個人向け金融
- 海外事業
といった事業を展開。SBI証券やSBIネット銀行など、グループ各社との連携を通じて「総合金融グループ」としての存在感を高めてきました。
元々SBIグループには住信SBIネット銀行という銀行もありましたが、NTTドコモに売却。
SBI新生銀行を中心に移行してきた感じですね。

SBI新生銀行の業績動向
次に業績と財務状況を確認しておきましょう。
直近の業績推移
連結ベースでは、直近数年で売上高(実質的な経常収益)が右肩上がりとなっています。
2025年3月期には売上高約6,140億円、経常利益約777億円、当期利益約845億円。
収益も利益もしっかりと伸びており、事業基盤の安定性が確認できます。
銀行業務における収益構造は、主に「資金利益」「手数料収益」「その他業務収益」の3つに分類されます。
SBI新生銀行の場合、グループ会社であるアプラスのクレジットカード事業や昭和リースのリース事業からの収益も重要な位置を占めます。
SBIグループとの統合により、デジタル証券やフィンテック分野での新規事業展開も期待されます。
従来の銀行業務の枠を超えた収益源の多様化が、今後の成長のカギを握るでしょう。
想定価格1,450円とPER・PBR
想定価格1,450円ベース以下となります。
- 前期実績ベース PER:約15倍前後
- 前期実績ベース PBR:約1.2倍前後
- 前期配当利回り:約0.2%(2.7円ベース)
一方、2026年3月期の会社予想EPSを用いた予想PERは おおよそ12倍前後 とされ、成長を織り込むと「やや割安〜適正」と見る向きもあります
公募価格は想定価格よりわずかに高い1,450円に決まったものの、差は1%未満なので、
- PER:12〜13倍前後
- PBR:1.2〜1.3倍程度
といったざっくりした水準感はほとんど変わりません。
ポイントとしては、典型的な「PBR0.3倍台の超割安地銀」というよりは、成長性をある程度織り込んだ「総合金融グループ」寄りの評価 を受けている、というところです。
というあたりがポイントです。
ちなみに上場廃止直前の住信SBIネット銀行の予想PER:約 21.6倍、PBR:約 4.2倍でしたので、それと比較すればSBI新生銀行のほうがかなり割安となっています。
住信SBIネット銀行など競合との比較
同じ銀行業の上場企業である楽天銀行やあおぞら銀行と比べると、
- 売上規模では楽天銀行より大きい
- 利益率(営業利益率)は楽天銀行の方が高い
- 時価総額は楽天銀行と同程度のレンジ
といった位置づけですね。
ちなみに比較されがちな元々SBIグループで、NTTドコモグループ入りしてから上場廃止になった住信SBIネット銀行との数字の違いも確認しておきましょう。
SBI新生銀行(2025年3月期/連結)
2025年3月期決算短信(連結)を見ると、以下のような水準です。
- 経常収益:約 6,140億円
- 経常利益:約 778億円
- 親会社株主に帰属する当期純利益:約 845億円
- 総資産:約 20.3兆円
- 純資産:約 9,554億円
規模は「メガバンクの一歩下」クラスで、SBIグループ入り後に収益力をかなり立て直してきた姿が数字に出ています。
住信SBIネット銀行(2025年3月期/連結)
公開買付け関連資料・決算短信を見ると、2025年3月期は次のとおり。
- 経常収益:1,465億21百万円(前年から+23.6%)
- 経常利益:381億89百万円
- 当期純利益:281億27百万円(前年から+13.2%)
- 総資産:11.24兆円
- 純資産:1,699億21百万円
と、規模感はSBI新生銀行のほうが一回り大きい感じですね。
ちなみに預金残高も同様です。
なお、SBI新生銀行がSBIハイパー預金を始めたり、改悪の動きがあることからSBI証券利用者の移行で預金残高はかなり動きそうな予感もあります。
最大4.2%の金利がつくキャンペーンも強烈ですしね



投資戦略と初値予想
次に投資戦略と初値予想をみてみましょう。
短期投資家向けの戦略
IPOの初値を狙う短期投資家にとって、SBI新生銀行は難しい案件です。
公開株数が多く、需給が悪化しやすい環境にあります。
ただし、年内最後の大型案件という希少性、知名度の高さから一定の需要は見込めます。
仮条件の水準や、ブックビルディングでの申込倍率が重要な判断材料となるでしょう。
同業の住信SBIネット銀行や楽天銀行の値動きなんかも参考になりそうです。
中長期投資家向けの視点
配当目的の長期投資としては、現在の配当利回り2.36%は物足りない水準です。
しかし、今後の配当成長を織り込めば、投資妙味が出てくる可能性があります。
SBIグループとのシナジー効果がどの程度具現化するか、デジタル分野での新規事業がどれだけ収益貢献するかが、中長期的な株価の方向性を決めるでしょう。
上場後の四半期決算や、経営陣による中期経営計画の説明を丁寧に追いかけることが重要です。
初値から数ヶ月間は株価が乱高下する可能性もあるため、じっくりと投資タイミングを見極める姿勢が求められます
まとめ
最後に、ポイントを整理します。
- 公募価格は 1,450円(仮条件上限) に決定
- 公開価格ベースの時価総額は 約1兆2,980億円、吸収金額はOA込みで 約3,700億円弱 の超大型IPO
- 公的資金完済後の再上場であり、日本の金融システム再建の一つの区切りとなる歴史的イベント
- PER・PBRは「超割安地銀」ではなく、「総合金融グループとしてやや成長を織り込んだ水準」
- 短期的には、公開株数の多さから 初値の大幅高は期待しにくい一方、銀行株人気や需要の厚さが下支え要因
- 中長期では、「第4のメガバンク構想」やフィンテック連携、配当成長余地などに注目
大型案件だけに、「当たりやすさ」だけで申し込むと、想定外の値動きに振り回されるリスク もあります。
- 自分のポートフォリオの中で、銀行株にどれだけウエイトを置くのか
- 長期でどの程度の配当成長を期待するのか
- そもそも短期で売るのか、中長期で持つのか
といった点をあらかじめ整理したうえで、冷静に判断していただくのがよいと思います。
なお、本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品への投資を推奨するものではありません。実際の投資判断は、ご自身の責任で行ってください

