先日、Xで育児休業給付を受給していた人が、職場復帰後すぐ退社したことを自慢気に書いていたら、それは不正受給なので通報しますと大炎上していました。
この問題は心情的な面もあり、難しいのですが、結論から言えば育児休業明けに退社すること自体は、法律上は問題ありません。
育児休業(育休)は「復職を前提とした制度」ではありますが、「必ず復職しなければならない」「復職後しばらく辞めてはいけない」といった決まりは、法律上どこにも書かれていません。
一方で、
- 会社側が育児休業を理由に解雇・退職強要をする
- 本人が最初から「育休だけ取って辞めるつもり」で制度を使う
このようなケースには、法的な問題が生じる可能性があります。
今回は育児休業明けの退社が「違法になる場面」と「ならない場面」を、整理して見ていきましょう。
育児休業明けの即退社の法的なポイントを整理
それでは具体的に見ていきましょう。
育児休業明けの退社は「労働者の自由」
退職の基本ルールは、民法と労働基準法で決まっています。
- 期間の定めのない雇用(いわゆる普通の正社員)の場合
民法627条により、原則として2週間前に退職の意思表示をすれば辞められるとされています。 - ただし、多くの会社の就業規則では「退職の申し出は退職希望日の30日前まで」
のような社内ルールを定めており、実務上はこちらに従うのが一般的です。
そして、育児休業明けであることによって、退職の自由が制限されることはありません。
つまり、「育児休業 退社 法的」に見ると、
- 退社できるかどうかは「育休の有無」ではなく
- 通常の退職ルール(就業規則・民法)に従うかどうか
がポイントになります。
会社がやってはいけないこと:マタハラ・育休切り
一方で、会社側にははっきりした「禁止事項」があります。
- 育児休業の申し出や取得を理由とした解雇・雇止め・不利益取り扱いは禁止(育児・介護休業法10条)
- 妊娠・出産・育休を理由とする解雇・降格などの不利益取り扱いは、いわゆる「マタハラ」として違法
例えば、
- 「育休なんて取るからだ。復帰は認めないので辞めてくれ」
- 「育休明けは全員パート扱いにする」
といった対応は、法律違反となる可能性が極めて高くなります。
「育児休業を取ったから辞めさせられる」のは違法。
「育児休業明けに本人が辞める」のは原則自由。
ここをまず押さえておきましょう。
育児休業給付金と退社の関係:返金は必要?
次に気になるのが、育児休業給付金(いわゆる「育休手当」)との関係です。
- 育休から復帰せずに退職した場合でも、過去に受け取った育児休業給付金を返金する必要はない
- 育休明けにすぐ退社した場合でも、原則として返金不要である
というのが、厚生労働省資料や専門家の共通した整理です。
ただし、育児休業給付金は、法律上は現在「雇用継続給付」という区分からは独立した制度になっていますが、もともとは『元の会社に戻って働き続けてもらうための給付』として設計された仕組みです。
そのため、「育児休業明けに退社=全部ズルい・全部違法」というわけではありませんが、制度の趣旨から見れば『復職する前提で利用する給付』であることは押さえておく必要があります。
これは産前産後休業(いわゆる産休)も同じですね。
「継続する気がないのに受給」は、たしかに不正受給になり得る
ただし、注意点がひとつあります。
- 最初から「育児休業を利用して給付金だけもらい、復職するつもりはまったくなかった」
- その意図を隠して、あたかも復帰する前提で申請した
という場合には、不正受給とみなされるリスクがあります。
SNSでも
継続する気がないのに育児休業給付を受けるのは不正受給で3倍返し
といった指摘が話題になりました。
法的な観点からいうと、
- 育児休業を取る前から「復職するつもりはない」と決めていたのに、
- 会社やハローワークには「復帰する前提です」と説明し、
- その前提で育児休業給付を受給した
というケースは、虚偽の申告を伴う不正受給に該当し得ます
この場合、育児休業後、即退社のタイミング自体というより、
「最初から辞めるつもりなのに、復職するフリをして給付を受けた」
という「偽りその他不正の行為」があるかどうかが、法的な争点になります。
ただし、実務上で考えると本人の「心の中の本音」まで証明することは難しいです。
少なくとも、
- 当初は本当に復職するつもりだった
- その後、子どもの状況や家計・夫婦の働き方などが変わって、退職という選択をするに至った
この流れであれば、育児休業給付金を返金する必要はないのです。
不正受給と判断されると「最大3倍返し」も
ちなみに雇用保険法では、不正受給があった場合、
- 不正に受け取った給付金の返還命令(1倍)
- さらに最大2倍の納付命令
が定められており、合計で最大3倍を納める必要が出てくると明記されています。
これは、失業手当だけでなく育児休業給付についても準用されるとされています。
ですから、「育児休業で即退社はずるい」と言われないようにする意味でも、
- 最初から退職するつもりなのに育児休業給付を受ける
- 退職が決まっているのに育児休業のまま申請し続ける
といった行為は避けるべきです。
途中で事情が変わっただけなら、通常は不正受給には当たらない
一方で、最初は本気で復職するつもりだったものの、
- 子どもの体調や発達の状況
- 保育園に入れない
- 夫婦の転勤・親の介護
- マタハラ・パワハラなど、職場環境の悪化
といった理由で「やむを得ず退職を選ぶ」ケースもありますよね。
このように、育児休業中や復職後に事情が変わった結果として退社する場合には、通常は不正受給には当たりません。
- 退職が決まった時点で速やかに会社とハローワークに伝える
- 退職日以降の期間については、育児休業給付の申請を行わない
など、必要な手続きをきちんとしていれば、過去に正当に受け取った分まで遡って「3倍返しになる」ことは通常想定されていません。
育児休業後、即退社はずるい?非常識と言われる背景
育児休業で検索すると、
- 「育児休業 退社 ずるい」
- 「育児休業明け 退社 非常識」
といったキーワードがたくさん出てきます。
背景には、次のような「職場側の本音」があります。
- 代替要員の採用・教育にコストがかかっている
- 育休中、周囲の社員がフォローしてきた
- 「戻ってくる前提」で人員計画を組んでいる
そのため、
「せっかく会社も周りもフォローしたのに、育児休業明けにすぐ退社なんてずるい」
「制度の“おいしいところだけ”使って辞めるのは非常識では?」
といった感情が生まれやすくなります。
データで見る「育休後退職」は決してレアではない
ただ、冷静に数字を見ると、育休後に退職する人は決して珍しくありません。
厚生労働省や内閣府のデータでは、第1子出産前後に女性が仕事を続ける割合は増えているものの、なお約半数近くが出産前後で離職しているという調査結果もあります。
また、育休後すぐの退職や、復帰後1年以内の退職も決して少なくないと報告されています。
つまり、
- 「育児休業明けに退社する人」は、社会全体で見れば一定数いる
- それでも「ずるい・非常識」と言われやすいのは、周囲の理解や情報がまだ追いついていない
という側面が大きいと言えます。
「育児休業 退社 ずるい」というレッテルへの向き合い方
法的には問題がないとしても、人間関係や感情の部分は、法律だけでは割り切れません。
- 会社側からすれば「想定外の退職」
- 本人からすれば「家族と自分を守るための苦渋の選択」
そのギャップが、「ずるい」「非常識」という言葉となって表れてしまうことがあります。
だからこそ、
- できるだけ早めに方針を伝える
- 理由を「わがまま」に聞こえないよう、事実ベースで丁寧に説明する
- 感謝とお詫びの気持ちを、言葉と行動でしっかり示す
この3点を意識するだけで、周囲の受け止め方は大きく変わります。
育児休業後の退社を円満に進めるための5ステップ
ここからは、「育児休業明けに退社したい」と考えたときに、できるだけ円満に進めるための流れを整理します。
ステップ1:家計とキャリアを冷静に見直す
「もう無理…」と感情的になっているときほど、紙とペン(あるいは家計アプリ)で冷静に数字を出してみてください。
- 退職後の収入見込み(パート・フリーランス・配偶者の収入など)
- 支出の見直し余地(保険・固定費・教育費のタイミングなど)
- 将来の資産形成・投資計画への影響
ここをざっくりでも可視化すると、
- 「いまは一度リセットした方がトータルでプラス」なのか
- 「時短勤務や部署変更で踏みとどまった方が良い」のか
が見えやすくなります。
自分のキャリアも「大きな資産」です。
短期的なしんどさだけで判断せず、10年・20年スパンでのリターンも一度イメージしてみましょう。
ステップ2:就業規則・雇用契約を確認する
次に、会社の就業規則と雇用契約書を確認します。
- 退職の申し出は何日前まで?
- 試用期間・在籍年数による違いはあるか?
- 競業避止義務や返還を求められる手当(貸与型の奨学金・支援制度など)はないか?
多くの会社では「退職1か月前までの申し出」が一般的ですが、育休明けすぐに退職したい場合は、育休中の段階で意思を固め、早めに相談しておくのが現実的です。
ステップ3:伝える順番とタイミングを決める
「誰に、いつ、どう伝えるか」で、印象は大きく変わります。
- 最初に伝えるのは、原則として直属の上司
- いきなり人事や同僚に話すのではなく、「上司→人事→チーム」の順が基本
- 育休明け当日にいきなり「今日で辞めます」は、法的にも職場の信頼関係の面でも避けるべき
言いにくい内容ですが、
- 子どもの健康状態
- 実家やパートナーの支援状況
- 通勤時間や保育園事情
など、「個人的な事情」と「職場への影響」を分けて、落ち着いて説明するのがポイントです。
このとき、「会社や同僚への不満」ではなく、あくまで家庭側の事情や、物理的に両立が難しいという事実に焦点を当てて話すと、角が立ちにくくなります。
ステップ4:引き継ぎと有給休暇の計画を立てる
育児休業明けに退社する場合でも、引き継ぎはできる範囲でしっかり行うことが、円満退社には不可欠です。
- マニュアルやチェックリストを簡潔に作る
- 担当案件の状況・期限・関係者を整理して共有する
- 有給休暇の消化スケジュールを、上司とすり合わせる
「業務に穴をあけないよう、できる限りのことはする」という姿勢を見せることで、
「育児休業 退社 ずるい」という職場のモヤモヤは、かなり薄まります。
ステップ5:感謝とお詫びをきちんと伝える
最後に、感謝とお詫びをしっかり伝えることです。
- 産休・育休を認めてくれた会社
- その間フォローしてくれた上司や同僚
に対して、
「制度を利用させていただいたうえに、このような形になり申し訳ありません」
「産休・育休中のフォロー、心から感謝しています」
と、短い言葉でも構いませんので、自分の口で伝えておきましょう。
この一手間で、「育児休業後、即退社が円満」に近づけるかどうかが大きく変わります。
まとめ
最後に、この記事のポイントを整理します。
- 育児休業明けにすぐ退社すること自体は、法的に違法ではありません。
- 育児休業給付金は、原則として返金不要。ただし、最初から退職前提で制度を利用した場合は不正受給のリスクがあります。
- 「育児休業 退社 ずるい」「育児休業明け 退社 非常識」といった声は、職場側の感情や誤解から生まれやすいもの。
- だからこそ、早めの相談・丁寧な説明・誠実な引き継ぎ・感謝の一言が、「育児休業 退社 円満」への近道になります。
- 一方で、会社が育休を理由に退職を迫る・不利益扱いをするのは違法になり得ます。その場合は、外部機関への相談も検討しましょう。
育児と仕事の両立は、「正解」がひとつではありません。大切なのは、
- 自分と家族が納得できる選択をすること
- 法的な権利を知ったうえで、職場との関係もできるだけ大切に扱うこと
この2つを両立させることです。
この記事が、「育児休業明けにすぐ退社するのは違法?」と不安になっている方の、判断材料のひとつになれば幸いです。
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