自営業を営んでいると、目の前の仕事に全力を注ぐあまり、「老後のこと」は後回しにしがちです。
「2000万円問題」という言葉を耳にして、「じゃあ2000万円貯めればいいんだな」と思った方。
残念ながら、それは会社員の話です。
自営業者の場合、必要な老後資金は2000万円どころではありません。
しかし同時に、自営業者には会社員にはない「5つの武器」と「定年がない」という最大の強みがあります。
本記事では、最新の年金データと制度改正情報をもとに、自営業者が本当に必要な老後資金の額を算出し、今日からできる具体的な対策をお伝えします。
さらに、「お金を貯めること」自体が目的になっていないか?というDIE WITH ZERO的な視点も交えて、自営業者ならではの老後戦略を考えていきましょう。
自営業者の年金はいくらもらえるのか?会社員との決定的な差
まず、自営業者がもらえる年金の現実を正確に把握しておきましょう。
国民年金の受給額:最新データ
厚生労働省が2025年12月に公表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金(老齢基礎年金)の平均受給額は以下のとおりです。
| 区分 | 平均年金月額 |
|---|---|
| 全体 | 約59,310円 |
| 男性 | 約61,595円 |
| 女性 | 約57,582円 |
(出典:厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」)
なお、2026年度の国民年金満額は月額70,608円に改定されています。
ただし、これは40年間すべての保険料を納付した場合の「満額」であり、免除期間や未納期間がある方は当然これより少なくなります。
一方、会社員が受け取る厚生年金(国民年金含む)の平均月額は約150,289円です。
会社員との差は「月9万円」
この差を整理すると、衝撃的な数字が見えてきます。
自営業者の夫婦(ともに国民年金のみ)の場合、2人合わせても月額約12万円程度。 会社員世帯(厚生年金+国民年金)のモデル世帯では月額約23万7,279円(2026年度)。
つまり、夫婦で比べると毎月10万円以上の差があるのです。
この差が30年続くと、約3,600万円もの開きになります。
あなたの年金額はご自身の「ねんきんネット」で確認できます。
まだ見たことがないという方は、今すぐチェックすることをおすすめします。
実際の数字を見ると、危機感の「解像度」がまったく変わるはずです。
自営業者に本当に必要な老後資金はいくらか?
それでは、自営業者は実際にいくらの老後資金を準備すべきなのでしょうか。
生活費の現実
総務省の家計調査(2024年)によると、65歳以上の無職世帯の平均消費支出は以下のとおりです。
| 世帯区分 | 月額消費支出 |
|---|---|
| 夫婦2人世帯 | 約25.6万円 |
| 単身世帯 | 約14.9万円 |
ここで注意すべきは、この数字には住居費が「持ち家前提」で低く抑えられている点です。
賃貸住まいの方は、さらに上乗せが必要になります。
また、この数字は「平均的な」生活水準であり、旅行や趣味、子や孫への支出、突発的な医療費や介護費用は含まれていません。
自営業者の老後資金シミュレーション
65歳から90歳まで(25年間)を前提に計算してみましょう。
夫婦ともに自営業の場合
支出:月25.6万円 × 12ヶ月 × 25年 = 7,680万円 年金収入:月12万円(2人分)× 12ヶ月 × 25年 = 3,600万円 不足額:約4,080万円
これに加えて、自営業者には退職金がありません。
会社員であれば退職金で1,000万〜2,000万円の上乗せがあるケースが一般的ですが、自営業者にはそれがゼロ。
したがって、夫婦ともに自営業の場合、最低でも4,000万〜5,000万円程度の老後資金が必要という計算になります。
「2000万円で足りる」は、あくまでも退職金がある会社員が、厚生年金をもらっている前提の話。
自営業者にとっては、その倍以上が必要なのです。
単身の自営業者の場合
支出:月14.9万円 × 12ヶ月 × 25年 = 4,470万円 年金収入:月6万円 × 12ヶ月 × 25年 = 1,800万円 不足額:約2,670万円
単身でも約2,700万円以上の準備が必要です。
ただし、ここに「ゆとりある老後」の費用を上乗せすると、さらに増える可能性があります。
生命保険文化センターの調査では、ゆとりある老後生活費として月36.1万円という結果も出ています。
「足りない」からこそ知っておくべきこと
この数字を見て「絶望的だ」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、ここで重要なのは2つの事実です。
第一に、自営業者には会社員にはない税制優遇制度が複数用意されていること。
第二に、自営業者には定年がないこと。
この2つを正しく活用すれば、会社員以上に有利な老後設計が可能です。次の章で具体的に見ていきましょう。
自営業者が使える「5つの武器」
自営業者は年金が少ないぶん、国が用意してくれている老後対策の制度が実は非常に充実しています。
ここでは、自営業者が活用すべき5つの制度を、それぞれの特徴と最新の制度改正情報とともに解説します。
武器1:iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoは自営業者にとって最も強力な老後対策の一つです。
最大のメリットは、掛金が全額所得控除になること。
つまり、老後資金を積み立てながら、毎年の所得税・住民税を減らせるという「二重のメリット」があります。
現行の掛金上限:月額68,000円(年額816,000円)
これだけでも十分に大きいですが、2027年1月からは月額75,000円(年額900,000円)に引き上げられる予定です(令和7年度税制改正大綱で決定済み)。
さらに、加入可能年齢も従来の60歳未満(自営業者の場合)から70歳未満まで拡大されます(年金制度改正法により決定、2028年頃までに施行予定)。
iDeCoに月68,000円を30年間、年利5%で運用した場合のシミュレーション:
拠出総額:2,448万円 運用益を含めた受取見込額:約5,660万円(税引前)
もちろん、運用にはリスクが伴いますが、長期・分散投資であればリスクをかなり抑えることが可能です。
ただし注意点もあります。
iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、事業の資金繰りに影響が出ない範囲で積み立てることが重要です。
また、2026年1月以降は退職所得控除の「5年ルール」が「10年ルール」に変更されるため、受け取り方の設計にも注意が必要です。

武器2:小規模企業共済
小規模企業共済は、いわば「自営業者の退職金制度」です。
中小機構が運営しており、事業をやめたときや65歳以上になったときに共済金を受け取れます。
こちらも掛金が全額所得控除になります。
つまり、節税効果があるんですね。
掛金:月額1,000円〜70,000円(全額所得控除)
債券を中心とした運用のため、予定利率は1.0%とあまり高くはありませんが、運用益に応じた「付加共済金」が上乗せされる場合があります。
また、受け取り時には退職所得控除(一括受取)が使えます。
さらに、掛金の範囲内で低利の貸付制度もあるため、万が一の資金繰りの際にも安心です。
iDeCoと小規模企業共済を両方満額で活用すれば、年間最大で約174万円もの所得控除を受けることができます(iDeCo年額90万円+小規模企業共済年額84万円、2027年以降の上限額で計算)。

武器3:NISA(少額投資非課税制度)
2024年からスタートした新NISAは、自営業者・会社員を問わず使える非課税投資制度です。
年間投資枠:つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=合計360万円
非課税保有限度額:1,800万円(生涯) 非課税期間:無期限
iDeCoとの最大の違いは、いつでも引き出せること。
これは資金繰りに波がある自営業者にとって非常に重要なポイントです。
iDeCoで「老後の基盤」を固め、NISAで「いつでも使える資産」を育てる。
この二刀流が、自営業者の資産形成の基本戦略です。
ただし、NISA貧乏には気をつけて・・・

武器4:付加年金
意外と知られていないのが「付加年金」です。
毎月の国民年金保険料に400円を上乗せして納付するだけで、将来の年金に「200円×納付月数」が上乗せされます。
たとえば、20年間(240ヶ月)付加保険料を納めた場合:
追加コスト:400円 × 240ヶ月 = 96,000円
上乗せ年金額:200円 × 240ヶ月 = 48,000円/年
つまり、わずか2年で元が取れる計算です。
「年利50%」の投資と同じ効果であり、これほど確実にリターンが得られる制度はほかにありません。
注意点として、付加年金と国民年金基金は併用できません(iDeCoとは併用可能)。

武器5:国民年金基金
国民年金基金は、自営業者だけが加入できる「国民年金の上乗せ年金」です。
掛金は全額所得控除。
ただし、掛け金の枠はiDeCoと共通です。
合算して月額68,000円(2027年以降は75,000円)が上限となります。
iDeCo+付加年金か国民年金基金か、どちらを選ぶかは「確実性重視か、安定性重視か」で判断が分かれます。
なお、枠内なら国民年金基金とiDeCoの併用も可能ですが、その場合は付加年金は使えなくなります。

5つの武器を組み合わせたおすすめの戦略
私のおすすめは、「付加年金+iDeCo+小規模企業共済+NISA」の4本柱です。
私自身もこの4つをそれぞれ満額で活用しています。
仮にこれらをすべて満額で運用した場合の年間拠出額と所得控除効果を整理すると:
| 制度 | 年間拠出額 | 所得控除 |
|---|---|---|
| iDeCo | 816,000円 | 全額控除 |
| 小規模企業共済 | 840,000円 | 全額控除 |
| 付加年金 | 4,800円 | 社会保険料控除 |
| NISA | 最大3,600,000円 | 控除なし(運用益非課税) |
| 合計 | 最大5,260,800円 | 約166万円 |
(2026年現在の制度、iDeCoは2027年改正前の上限で計算)
もちろん、すべてを満額にする必要はありません。
事業の状況に合わせて、まずは少額から始めることが大切です。
月5,000円からでもiDeCoは始められます。

自営業者の「最大の武器」:定年がないこと
制度の話ばかりしてきましたが、自営業者にとって最も大きな優位性は「定年がない」ということです。
働き続けることの経済効果
会社員は多くの場合、60歳か65歳で定年を迎えます。
再雇用されても収入は大幅に下がるのが一般的です。
しかし、自営業者には定年がありません。
健康であれば何歳でも働けます。
仮に月20万円の事業利益を75歳まで得られるとしましょう。
65歳から75歳の10年間で2,400万円。
これだけで老後資金の不足分のかなりの部分をカバーできます。
年金の繰り下げ受給を併用する
そして、働いている間は年金の受け取りを遅らせる「繰り下げ受給」が使えます。
年金は1ヶ月受給を遅らせるごとに0.7%増額され、75歳まで繰り下げると最大84%の増額になります。
国民年金満額(月額70,608円、2026年度)を75歳まで繰り下げた場合:
月額70,608円 × 184% = 月額約129,919円
満額の約1.8倍です。夫婦2人なら月約26万円となり、これだけでも基本的な生活費をほぼカバーできる水準になります。
もちろん、繰り下げ期間中は年金がもらえないため、その間の生活費は事業収入や貯蓄でまかなう必要があります。
自営業者として仕事を続けていればこそ、この戦略が取れるのです。
ちなみに、75歳まで繰り下げた場合の損益分岐点は約87歳。
日本人男性の平均寿命が81.09歳、女性が87.14歳(令和5年簡易生命表)であることを考えると、特に女性にとっては合理的な選択肢と言えます。
「貯めること」が目的になっていないか?DIE WITH ZEROの視点
ここまで「いかに老後資金を準備するか」を語ってきましたが、ひとつ大切な問いを投げかけたいと思います。
ビル・パーキンスの著書『DIE WITH ZERO』は、「人生のゴールはお金を残すことではなく、体験を最大化すること」だと説きます。
昔から「天国にお金は持っていけない」と言いますが、この本はそれを行動経済学の視点から理論化しているのです。
「記憶配当」という考え方
30歳のときに行った旅行の思い出は、60歳になっても70歳になっても、あなたに喜びを与え続けます。
パーキンスはこれを「記憶配当」と呼びました。
つまり、若いうちの体験は「複利」で価値が膨らんでいくのです。
逆に、75歳で初めて豪華旅行に出かけても、その記憶を味わえる年数は限られています。
自営業者だからこそできる「最適配分」
自営業者は、仕事のペースをある程度自分でコントロールできます。
これは会社員にはない大きな自由です。
「いつか余裕ができたら旅行に行こう」ではなく、「今年の売上から50万円は体験に投資する」と決めてしまうのも一つの考え方です。
もちろん、無計画にお金を使ってしまっては本末転倒。
大切なのは「守りの資産形成」と「攻めの体験投資」を同時に設計すること。
iDeCoと小規模企業共済で老後の基盤を固めつつ、NISAでいつでも引き出せる資産を育て、そのうえで「今しかできない体験」にも投資する。
この三層構造こそが、自営業者ならではの豊かな人生戦略ではないでしょうか。
子どもに財産を残す? それとも…
「子どもに少しでも多く残したい」と考える方もいるでしょう。
しかし、冷静に考えてみてください。あなたが平均寿命まで生きるとすれば、あなたが亡くなるとき、お子さんはすでに50代〜60代。
もしかすると高齢者になっているかもしれません。
60代の子どもに大金を相続させるよりも、30代の子どもに教育資金や住宅資金を「生前贈与」したほうが、お金の効用ははるかに大きいのです。
教育資金の一括贈与であれば1,000万円まで非課税の制度もあります。
「残す」のではなく「渡すタイミングを最適化する」。
これもDIE WITH ZEROの重要な教えです。

今日から始める3ステップ
ここまで読んで「何から手をつければいいかわからない」という方のために、具体的な3ステップをお伝えします。
ステップ1:現状を把握する
まずは「ねんきんネット」で自分の年金見込額を確認してください。
ログインするだけで、将来もらえる年金の概算額がわかります。
そのうえで、毎月の生活費を書き出し、「年金だけでは毎月いくら足りないのか」を具体的な数字で把握します。
ステップ2:制度を1つ始める
いきなり全部の制度を始める必要はありません。まずは1つだけ。
おすすめの優先順位は:
- 付加年金(月400円から始められ、確実にリターンがある)
- iDeCo(節税効果が最も大きい)
- 小規模企業共済(退職金の代わりになる)
- NISA(いつでも引き出せる柔軟性)
月400円の付加年金なら今日からでも手続きできます。
お住まいの市区町村の役所で申し込むだけです。
ステップ3:5年ごとに「人生決算」をする
DIE WITH ZEROの著者パーキンスは、「5年ごとに人生の棚卸しをしろ」と提唱しています。
資産の状況だけでなく、「この5年間でどんな体験をしたか」「次の5年間で何を経験したいか」も一緒に振り返る。
守りの資産形成と攻めの体験投資。
この両輪を定期的に見直すことで、お金に振り回されない、豊かな自営業者人生を設計できるはずです。
まとめ
自営業者の老後資金は、2000万円では全然足りません。
夫婦で4,000万〜5,000万円、単身でも2,700万円以上が必要です。
しかし、悲観する必要はありません。自営業者には次の強みがあります。
iDeCo(月68,000円、2027年から月75,000円に引き上げ)、小規模企業共済(月70,000円)、NISA(年間最大360万円)、付加年金(月400円で年利50%相当のリターン)、国民年金基金。
これら5つの制度をフル活用すれば、会社員以上に効率的な資産形成が可能です。
そして何より、自営業者には定年がない。
この最大の武器を活かし、働きながら年金の繰り下げ受給を組み合わせれば、年金額を最大84%増やすことも現実的です。
ただし、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
お金を貯めることは手段であって、目的ではないということ。
「使い切る」とまでいかなくとも、「今しかできない体験」にもしっかりお金を使ってほしい。自分の人生を豊かにするのは、通帳の数字ではなく「記憶」です。
まずは付加年金の月400円から。
あるいはねんきんネットの確認から。小さな一歩が、あなたの老後を大きく変えます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
個人型確定拠出年金(iDeCo/イデコ)に加入するならこの3社から選ぼう
個人型確定拠出年金(iDeCo/イデコ)を始めるならまずは金融機関を決める必要があります。
しかし、たくさんあってどこにしたらよいのかわからない方も多いでしょう。
簡単に決めてしまう方もおおいかもしれませんが、個人型確定拠出年金(iDeCo/イデコ)の場合、金融機関ごとの違いがとても大きいですから慎重に選びたいところです。
私が今もし、新たに加入するならSBI証券、マネックス証券、松井証券の3択の中から決めます。
(※私が加入しているのはSBI証券です)
この3つの金融機関は運営管理機関手数料が無料です。※国民年金基金連合会の手数料等は各社共通で掛かります。
また、運用商品もインデックスファンドを中心に信託報酬が低い投資信託が充実しているんですよ。
順番に見ていきましょう。
SBI証券
まずイチオシはSBI証券「個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)」です。
SBI証券は信託報酬も最安値水準のeMAXIS Slimシリーズを始めとしたインデックスファンドから雪だるま全世界株式といった特徴ある投資信託をたくさん揃えているところが最大の魅力です。
選択の楽しさがありますよね。
また、確定拠出年金を会社員に解禁される前から長年手掛けている老舗である安心感も大きいですね。
マネックス証券
次点はマネックス証券 iDeCoです。
こちらも後発ながらかなりiDeCoに力をいれていますね。
iDeCo初でiFreeNEXT NASDAQ100 インデックスを取扱い開始したのに興味をひかれる人も多いでしょう。
松井証券
松井証券のiDeCoは35本制限まで余裕があるというのは後発の強みですね。
その35本制限までの余裕を生かして他社で人気となっている対象投資信託を一気に採用して話題になっていますね。
こちらも有力候補の一つですね。
さらに2024年8月1日(木)より投資信託の保有でポイントが貯まるようになり、現在の条件なら本命といっても良いでしょう。
総合して考えるとこの3つの金融機関に加入すれば大きな後悔はないかなと思います。
他の運営管理機関もぜひがんばってほしいところですが・・・
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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