資産形成において、積立投資を始めることは比較的容易です。
しかし、積み上げた資産をどのように取り崩していくかという「出口戦略」については、多くの投資家が頭を悩ませています。
相場が良いときは「まだ上がるかもしれない」という欲が、相場が悪いときは「今売ると損をする」という恐怖が邪魔をして、冷静な売却判断を妨げるからです。
これは行動経済学におけるプロスペクト理論でも説明される、人間本来の心理的傾向です。
そんな中、SBI証券の「投資信託定期売却サービス」の機能拡充は、かなり嬉しいニュースとなります、。
今回は、SBI定期売却サービスのメリット・デメリットや、NISA定期売却の活用イメージを、老後資金・FIREを意識した視点で整理していきます。
SBI定期売却サービスの基本と新機能
まずは今回の新機能の話から確認しておきましょう。
もともとの「定額指定方式」とは
従来のSBI定期売却サービスは、毎月の売却額(円)だけを指定するシンプルな方式でした。
- 1回あたりの売却金額を指定(1,000円以上、1円単位)
- 毎月/奇数月/偶数月からコース選択
- 売却日も毎月1〜27日および月末(最終営業日)から選べる
- サービス利用手数料は「無料(0円)」
積み上げた投資信託を、毎月一定額ずつ取り崩しながら生活費の一部に充てる、いわば「自分年金」を作るための機能として位置づけられています。
高配当株や高分配投資信託が人気がありますが、配当や分配は複利効果を活かしにくいというデメリットがあります。
しかし、投資信託定期売却は複利効果を活かしつつ、必要な金額を取り崩すという老後生活に適した仕組みで人気となっているんですよ。


新しく追加された「定率指定方式」
今回の機能拡充で、ついに待望の定率指定方式が加わりました。
- 売却注文時点の保有口数に対して、指定割合(0.1〜50%)で売却
- 必要に応じて、上限金額も設定可能
例えば、オルカンなどのインデックスファンドを2,000万円分保有していて、「毎年4%を取り崩したい」と考えるなら、年間4%・月次ならおおよそ月0.33%の定率売却を設定するイメージです。
いわゆるFIREの「4%ルール」を自動化するイメージで使えるため、FIREや早期退職後の生活費確保と相性がよい仕組みです。
もうひとつの新機能「期間指定方式」
もう一つの目玉が期間指定方式です。
- 「最終受取年月」を指定
- 開始月〜最終月までの売却回数で保有口数を均等割りして売却
- 最長で50年・600回の設定が可能
例えば、60歳から90歳まで30年間の生活費を投資信託から取り崩したい場合、60歳〜90歳までの年月を指定しておけば、その期間で均等に売却してくれるイメージです。
「この資産は何歳までにゼロになって良い」と割り切るなら、非常に設計しやすい方式です。
NISA定期売却がようやく実現
今回の機能拡充でもう一つ重要なのが、NISA口座(旧NISA含む)でも定期売却の設定ができるようになった点です。
- 対象口座:NISA口座(旧NISA含む)、一般口座、特定口座
- ジュニアNISAは対象外
- 対象商品:SBI証券で預かっている公募投資信託
(ETF、外貨建てMMF、SBIラップ、ROBOPROなどは対象外)
新NISAで非課税枠をコツコツ積み上げてきた方にとって、その資産を自動で取り崩せるようになったのは、出口戦略上かなり大きな意味があります。
SBI定期売却サービスのメリットを整理する
次に定期売却サービスのメリットを整理しておきましょう。
感情に左右されない「機械的な取り崩し」ができる
投資の世界では、同じ金額でも「得したうれしさ」より「損したつらさ」を強く感じる、いわゆるプロスペクト理論が知られています。
- 下落相場では「今売ったらもったいない」と取り崩しを先延ばししがち
- 逆に暴騰局面では「今のうちに利益確定しないと」と一気に売ってしまう
こうした感情のブレは、老後の生活費という文脈ではむしろリスクです。定期売却サービスでルールを決めてしまえば、機械的に売却してくれるので、自分で毎回悩む必要がありません。
特に、定率指定方式なら「評価額の○%」と決めるだけで、残高に応じた自然な取り崩しができます。
老後資金・FIREの「自分年金」にしやすい
SBI証券自身も、「つみたて×定期売却で自分年金を作ろう」というコンテンツを出しています。
- 現役時代:つみたてNISA・新NISAでコツコツ積立
- リタイア後:定期売却で毎月の生活費を自動確保
という「入口」と「出口」を同じ証券会社で完結させられるのは、運用の再現性を高める意味でもプラスです。
特に定率+NISA定期売却の組み合わせは、
- 年間4%ルールなどの取り崩し率管理
- 売却益が非課税になることによる手取り最大化
を同時に満たせるため、FIRE層とも非常に相性が良いと考えられます。
NISA定期売却で税負担を抑えられる
通常、特定口座で投資信託を売却すると、譲渡益に約20.315%の税金がかかります。
例えば、投資信託を毎年60万円ずつ売却し、そのうち20万円が利益だとすると、概算で約4万円の税金が差し引かれるイメージです。
一方、新NISA口座であれば、売却益は非課税。同じ定期売却でも、手取りはそのぶん増えることになります。
- 「税金で目減りする」のは、損失以上に心理的ダメージが大きい
- プロスペクト理論的にも、「税金で失う」感覚は強く意識されやすい
だからこそ、NISA定期売却をうまく組み合わせることは、行動経済学的にも現実的な心理にも配慮した出口戦略といえます。
特定口座→NISAへの「資産のお引っ越し」にも役立つ
すでに、一部のFP・投資助言業の現場では、特定口座の投信を定期売却しながら、新NISAへ定期積立するという「資産のお引っ越し」手法が紹介されています。
- 特定口座のファンドを定期売却(定額 or 定率)
- その資金を原資に、NISAで別のファンドを定期積立
SBIの定期売却サービスが定率・期間指定に対応し、NISAでも使えるようになったことで、この「お引っ越し」もより柔軟に設計できるようになります。
投資信託定期売却のデメリットと注意点
ここからは、検索ニーズの大きい「投資信託定期売却 デメリット」の視点で整理していきます。
元本保証ではない・取り崩しリスクは残る
まず当然ですが、定期売却サービスは元本保証ではありません。
- 売却のたびに基準価額次第で受取額は変わる
- 長期の下落トレンドに入れば、口数を大きく削る可能性もある
特に、リタイア直後に大きな下落が来ると、その後の資産寿命に大きな影響が出る「シークエンス・オブ・リターンリスク」が存在します。
定期売却はそのリスクをなくすものではなく、「ルールを決めて淡々と取り崩すための道具」に過ぎないという前提は押さえておく必要があります。
定率指定方式は「下がると余計に売る」側面もある
定率指定は一見合理的ですが、下落局面では注意が必要です。
- 残高が減ると、同じ%でも受け取る金額は減る
- それでも生活費が足りず、取り崩し率を上げてしまうと、口数の減り方が加速
プロスペクト理論的には、損失が続くと「早く楽になりたい」と短期的な安心を求めて、取り崩しを増やしてしまう行動が出やすいとされます。
定率指定を使う場合は、
- 「この%はどんな相場でも変えない」というルールを事前に決める
- 生活費が不足しないように、現金クッションを別に確保する
といった設計が欠かせません。
期間指定方式は「最後ゼロでいい」資産向き
期間指定方式は、「この資産を何年で均等に取り崩すか」を決める設計です。
- 最長50年・600回という枠の中で、期間を決めてしまう
- 終了時点では、基本的にそのファンド残高はほぼゼロになる想定
そのため、
- 「自分が生きている間に使い切れればよい」資産
- 「子どもに残す予定はあまりない」ポーション
といった位置づけの資産に向いています。
遺産として残したい資産まで期間指定で削ってしまうと、「想定外に長生きして資産が足りなくなった」「相続で残すつもりが、ほとんど残っていなかった」というリスクもありえます。
NISA定期売却でも「非課税枠」は戻らない
NISA定期売却は非常に魅力的ですが、ひとつ押さえておきたいのが、一度売却した非課税枠は再利用できないという点です。
- 取り崩しを急ぎすぎると、将来の運用余地を自分で狭める
- 「いつ」「どのくらいのペースで」取り崩すかは、ライフプランから逆算が必要
非課税メリットを最大化したいあまり、早い段階で大きく売却しすぎるのも一種の行動バイアスです。
「いまの安心」と「将来の安心」をどうバランスさせるか、事前のシミュレーションが大切です。
SBI定期売却サービスの実務的な制約も確認しておく
あらためて、SBIならではの制約も整理しておきます。
- 対象商品は公募投資信託のみ
ETF、外貨建てMMF、SBIラップ、ROBOPRO等は対象外 - 対象口座はNISA(旧NISA含む)・一般・特定
ジュニアNISAは対象外 - 売却コースは毎月/奇数月/偶数月
- 設定可能日は毎月1〜27日+月末(最終営業日)
- サービス利用手数料は無料(0円)
細かい条件は今後変更される可能性もあるため、実際に設定する際には必ずSBI証券の公式サイトのお知らせを確認してください。
具体的な活用パターン3つ
具体的な活用パターンを確認しておきましょう。
ケース① 新NISAオルカンを「年間4%」の定率で取り崩す
例えば、60歳で新NISAの成長投資枠にオルカンを2,400万円保有しているとします。
- 年間4%=96万円
- 月次に直すとおよそ月8万円弱
これをNISA定期売却+定率指定方式で自動化すれば、
- 公的年金+月8万円の「自分年金」
- 売却益は非課税なので、特定口座より手取りが増える
という設計が可能です。
もちろん、実際には相場変動で受取額は前後します。ですから、別途現金クッションを確保したうえで、4%ルールを守るといった全体設計が重要になります。
ケース② 特定口座からNISAへ「10年かけてお引っ越し」
特定口座に1,000万円の投信をすでに保有している場合、
- 特定口座:毎月一定額を定額定期売却
- NISA口座:その資金をもとに毎月一定額の積立投資
という「お引っ越し」を、SBI定期売却サービスを使って半自動化できます。
今後は、定率や期間指定も使えるため、
- 「特定口座は10年でゼロにする」
- 「NISAは20〜30年運用する」
というように、時間軸ごとに役割を分けた設計もやりやすくなります。
ケース③ 65〜90歳までの生活費を期間指定で設計する
もう少し「使い切り」に寄せるなら、期間指定方式が便利です。
- 65歳〜90歳までの25年間を指定
- 保有している投信を、その期間で均等に売却
公的年金と組み合わせることで、
- 公的年金:ベースの生活費
- 定期売却:旅行や趣味など「上乗せ分」
といった形で、人生後半のキャッシュフローを視覚的に設計しやすくなります。
他社との比較で見える「SBI定期売却」の立ち位置
定期売却機能は、楽天証券など他社もすでに提供していましたが、SBIはこれまで定額のみという状況でした。
今回の定率・期間指定・NISA対応によって、ようやく機能面ではほぼ横並びになったといえます。
一方で、
- 投資信託の品ぞろえ
- 信託報酬の実質負担(手数料還元など)
- 既存の積立設定やポイントプログラム
と合わせて考えると、「SBI一本にまとめておく」メリットも無視できません。
「どの証券会社をメインにするか」という選択にも、今回の機能拡充は影響してきそうです。
まとめ:SBIの定期売却拡充は「出口の標準装備化」
SBI証券の投資信託定期売却サービスは、
- 定額指定方式(従来)
- 定率指定方式(新)
- 期間指定方式(新)
- NISA定期売却(新)
という形で、資産形成の出口戦略をかなり細かく設計できるレベルに進化しました
ただし、どれだけ機能が増えても、
- どのくらいの生活費が必要か
- どの程度のリスク許容度があるか
- どこまで資産を残したいのか
といったライフプランの前提がなければ、適切な設定はできません。
「SBI 定期売却 メリット」だけでなく、「投資信託定期売却 デメリット」もきちんと理解したうえで、自分の人生設計に合った出口戦略をじっくり組み立てていくことが大切です。
その意味で、今回の機能拡充は、単なる便利機能の追加というよりも、「長期投資の出口を標準装備に近づけたアップデート」だと私は感じています。
にほんブログ村

