本記事は、日本維新の会の「国保逃れ」問題の背後にある、あまり語られていない「国民年金問題」の本質を解き明かします。
この問題が私たちの年金制度にどう影響するのか、そして自営業者やフリーランスの配偶者が直面している「制度の不公平」を明らかにします。
維新の会の「国民健康保険逃れ」問題の概要
2025年12月、大阪府議会での一般質問をきっかけに、日本維新の会所属議員による「社会保険料逃れ」疑惑が表面化しました。
その手口はこうです。
一般社団法人の理事に就任し、月額1万円程度の低額報酬を受け取ることで、社会保険に加入する。
すると、本来支払うべき国民健康保険料(年間100万円超になることも)を回避し、年間数万円程度の保険料で済んでしまうというものです。
2026年1月、維新は党内調査の中間報告を公表し、兵庫県議2名、神戸市議、尼崎市議各1名の計4名が京都市の一般社団法人「栄響連盟」の理事に就いていたことを認めました。
報酬は月額1万1,700円。
この金額を基準に社会保険料が計算されるため、年間の社会保険料負担は劇的に下がります。
維新の中司宏幹事長は「国保逃れの脱法的行為と捉えられる」と認め、処分を検討すると発表しました。
詳しくはこちらの記事で解説しております。

国民健康保険と社会保険は、そもそも設計思想が違う
国保と社会保険は、同じ医療保険でも前提が違います。ざっくり言えばこうです。
国保
・主な対象:自営業、フリーランス、無職期間のある人、退職後の人など
・負担:原則として本人が全額負担(世帯単位の要素も強い)
・保険料:所得などを基に市区町村ごとに計算
社会保険(会社の健康保険)
・主な対象:会社員、公務員など
・負担:本人と事業主が折半
・保険料:給与(標準報酬月額)を基に計算
この「事業主が半分持つ」という構造が、国保と比べたときの体感差を生みます。
国保にいる人が「高すぎる」と感じやすいのは、制度が悪いというより、制度の前提が違うからです。

ただし、ここで終わりません。
問題の核心は「医療保険の切り替え」に見えて、実はもう一つの大物が一緒に動く点にあります。
国民年金です。
見落とされている「国民年金問題」
報道の多くは「国保逃れ」に焦点を当てています。
確かに、国民健康保険料の負担軽減は最もわかりやすい「メリット」でしょう。
しかし、もう一つ指摘したいのは、この問題が「国民年金」にも直結しているという点です。
年金制度の仕組み
日本の年金制度では、20歳以上60歳未満のすべての人が国民年金に加入します。
そして、被保険者は3つの区分に分けられています。
第1号被保険者は、自営業者、フリーランス、学生、無職の方などです。
国民健康保険に加入し、国民年金保険料を自分で納付します。
第2号被保険者は、会社員や公務員など厚生年金に加入している方です。
そして第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養されている配偶者です。
年収130万円未満で、配偶者の扶養に入っている場合がこれに該当します。
今回の騒動が、仮に「国保の回避」だけの話なら、まだ論点は限定的でした。
しかし報道の構図は「理事報酬が少額で、その報酬を基に社会保険料が算定される」でした。
社会保険料は、健康保険だけでなく年金(厚生年金側)も同じ給与ベースで動きます。
つまり、うまく設計すれば「医療」も「年金」も同時に軽くできてしまう余地が生まれます。
これが「維新 国民年金問題」と繋がる入口です。
ここで誤解してほしくないのは、「社会保険に入ること自体が悪」ではありません。
適正な雇用や役員就任に伴って社会保険に入るのは、当然に起きることです。
論点は、実態と釣り合わない形で、制度の想定外の使い方が広がると、誰が穴埋めをするのか、という話です。
誰かの未納や逃げは、必ず誰かの負担になる
国保の加入者は全国で約2,309万人(令和5年度、市町村国保)とされ、国保料(税)の収納率は94.20%と公表されています。
収納率94.20%は、裏側から見ると「完璧には集まらない」現実も意味します。
だからこそ、ルールの範囲であれ逸脱であれ、「負担を抜ける動き」が増えるほど、まじめに払う人の負担感は上がります。
国民年金も同様です。厚労省の公表資料では、国民年金第1号被保険者の最終納付率(過去分の追納を織り込んだ指標)が令和5年度で83.1%とされています。
83.1%は「改善している」のは事実ですが、「全員が払えている」ではありません。
つまり、国保も国民年金も、制度の信頼は「払う側の納得感」に強く依存している、ということです。
第三号被保険者が、議論をさらに難しくする
維新議員の問題に戻りましょう。
彼らが一般社団法人の理事として社会保険に加入したということは、「国民健康保険」だけでなく「国民年金」の区分も変わるということです。
具体的には、第1号被保険者から第2号被保険者に切り替わります。
そして、ここからが本題です。
もしその議員に配偶者がいて、その配偶者が専業主婦(主夫)または年収130万円未満のパートなどで働いていた場合、どうなるでしょうか。
答えは明確です。
配偶者は第3号被保険者となり、国民年金保険料を一切支払う必要がなくなります。
本来、自営業者やフリーランス(第1号被保険者)の配偶者は、たとえ収入がなくても第1号被保険者として扱われます。
つまり、配偶者自身も国民年金保険料を納付しなければなりません。
2025年度の国民年金保険料は月額17,510円。
年間で約20万円以上の負担です。
夫婦2人分であれば、年間40万円を超える金額になります。
ところが、夫が社会保険に加入すれば、妻は第3号被保険者となり、保険料負担がゼロになります。
しかも、将来受け取る基礎年金の金額は、保険料を支払った人と同じです。
第三号被保険者制度が抱える構造的問題
ここで少し視野を広げてみましょう。
第3号被保険者制度は、1985年の年金制度改正で創設されました。
当時は専業主婦が多く、夫の厚生年金だけでは妻の年金権が保障されないという問題がありました。
制度創設により、専業主婦も自分名義の年金権を得られるようになったのです。
しかし、この制度には当初から批判がありました。
第1の問題は、自営業者との不公平です。
会社員の妻(配偶者)は保険料を払わずに年金が受け取れます。
一方、自営業者の妻は、たとえ収入がなくても保険料を払わなければなりません。
同じ「専業主婦」でも、夫の職業によって扱いが異なるのです。
第2の問題は、「働き控え」の要因になっていることです。
年収が130万円を超えると扶養から外れ、自分で社会保険料を払う必要が出てきます。
いわゆる「130万円の壁」です。これが女性の就労意欲を削ぐ要因になっていると指摘されています。
第3の問題は、第2号被保険者全体で第3号被保険者の保険料を負担している構造です。
独身の会社員も、共働き世帯の会社員も、専業主婦(主夫)を扶養している会社員も、同じ保険料率で厚生年金保険料を支払っています。
つまり、扶養家族のいない単身者や共働き世帯が、専業主婦世帯の保険料を「肩代わり」している構造になっているのです。

制度の「歪み」をどう考えるか
ここで一つ、冷静に考えてみましょう。
維新議員の行為を批判することは簡単です。
しかし、そもそもこのような「抜け穴」が存在すること自体、制度設計に問題があるのではないでしょうか。
第1号被保険者と第2号被保険者の間には、大きな格差があります。
国民健康保険には扶養という概念がありません。
家族が増えれば、その分だけ保険料が増えます。
一方、健康保険(社保)には扶養制度があり、配偶者や子どもは追加負担なしで保険に入れます。
国民年金でも同様です。
自営業者の配偶者は自分で保険料を払いますが、会社員の配偶者は払う必要がありません。
この格差があるからこそ、「なんとかして社保に入りたい」というニーズが生まれ、脱法的なスキームがビジネスとして成立してしまうのです。
厚生労働省の資料によると、従業員1〜4人規模の会社において、標準報酬月額5万8,000円の被保険者数が異常に多いというデータがあります。
これは、1人社長の法人で、自分の給料を最低水準に設定しているケースが多いことを示唆しています。
つまり、今回の維新議員のケースは氷山の一角であり、同様の行為は全国で広く行われている可能性があるのです。
政治家に問われる倫理
とはいえ、一般の自営業者と政治家を同列に論じることはできません。
政治家には、より高い倫理観が求められます。
特に維新は「社会保険料の引き下げ」を政策の柱に掲げてきました。
国民に社会保険料の負担軽減を約束しながら、自分たちだけが脱法的な手法で負担を逃れていたとすれば、それは明らかな背信行為です。
京都新聞の社説はこう指摘しています。
「口先だけの『身を切る改革』でなく、自ら『身を正す改革』と、脱法を防ぐ規制の議論こそ政治の責任だ」と。
まさにその通りです。
問題の本質は、「法に触れていなければ何をしてもいい」という姿勢にあります。
確かに、現行法では一般社団法人の理事として低額報酬を受け取ることは違法ではありません。
しかし、制度の趣旨を逸脱し、負担を不当に逃れる行為が「適切」とは到底言えません。
社会保険制度改革の方向性
この問題を契機に、制度改革の議論が進むことを期待したいと思います。
考えられる方向性はいくつかあります。
私が求めたいのは、次の3点です。
① 社会保険を抜本から改革する
② 実態のない加入を誘発するビジネスを、監督と執行で抑える
③ 第三号被保険者を含む不公平感の論点を、先送りせずにテーブルに載せる
社会保険を抜本から改革
今回の話は第1号被保険者と第2号被保険者の格差を大きく変えるある意味チャンスです。
例えば国民健康保険にも扶養制度を導入する、あるいは第3号被保険者制度を廃止して全員が保険料を負担する仕組みに変えるなどです。
また、応能負担の徹底です。
所得に応じた保険料負担を、抜け穴なく実現するための仕組み作りが求められます。
例えば議員と会社役員の二本立てなら2つの所得を合算して社会保険を適用する仕組みの導入ってことですね。
会社役員の報酬だけで社会保険を計算するから歪なことになっているのです。
かなり大規模な制度改革が必要ですが、ある意味そのチャンスとなっています。
さらに踏み込めば、年金にしても健康保険にしてももっとわかりやすくシンプルに一つの制度に変えるという抜本改革もありかもしれません。
マイナンバーが導入されたときにはそういうところも改革されると期待したのですが・・・

マイクロ法人や名目的な役員就任への規制強化
実態のない法人役員による社会保険加入を防ぐための審査強化や、ルールの強化、最低報酬額の引き上げなどが考えられます。
こちらも今回の維新の問題は改革するチャンスが到来していますね。
第三号被保険者などの見直し
第三号被保険者の問題は、すでに厚生労働省なども議論の対象としています。
維新側も「第3号被保険者制度の見直し」といった抜本議論が避けられてきたという趣旨に触れています。
しかし、反対も多いことから先送り気味です。
今回の話はこの改革を一気に進めるチャンスですね。
今回の件を“単発の不祥事処理”で終わらせず、制度の納得設計まで踏み込めるかが問われます。
私たちにできること
では、私たち一般市民には何ができるでしょうか。
第一に、制度を正しく理解することです。「知らない」ことは損を招きます。
今回の問題を通じて、国民健康保険と健康保険の違い、国民年金の3つの被保険者区分、第3号被保険者制度の仕組みを理解することが大切です。
第二に、制度の問題点に声を上げることです。
「維新が悪い」「自民が悪い」という感情的なレッテル貼りで思考停止しないことです。
どの政党であれ、「社会保険の適用拡大」と「給付と負担のバランス」という不人気な政策に、どれだけ誠実に向き合っているかをチェックしてください。
耳触りの良い「改革」の裏に、今回のような「ただ乗り」の構造が隠されていないか、クリティカルに監視する目が、私たち国民(投資家)には求められています。
不公平な制度、抜け穴だらけの制度は、国民の声によって変えていくしかありません。
選挙での投票、パブリックコメントへの参加など、できることはあります。
第三に、自分自身の資産形成を考えることです。公的年金だけに頼らず、iDeCoやNISAを活用した自助努力も重要です。
特に自営業者やフリーランスの方は、国民年金だけでは老後の生活が厳しくなる可能性があります。
付加年金や国民年金基金、小規模企業共済など、利用できる制度を積極的に活用しましょう。


まとめ
維新議員の「国保逃れ」問題は、単なる一政党のスキャンダルではありません。
この問題は、日本の社会保険制度が抱える構造的な歪みを浮き彫りにしています。
自営業者と会社員の間の不公平、第3号被保険者制度の問題、そして「抜け穴」を突くスキームの横行。
国民健康保険の問題だけでなく、国民年金の問題にも直結しているという視点を持つことが重要です。
社会保険料の負担軽減を訴える政党の議員が、自分たちだけ負担を逃れていた。
この構図は、制度改革を進める上で大きな障害になりかねません。
信頼を失った政治家が、どうして国民に負担を求める改革を進められるでしょうか。
私たちにできることは、まず制度を正しく理解すること。
そして、不公平な制度には声を上げ、自分自身の老後に備えることです。
「知識のない者が搾取され、知識のある者が制度のバグを突く」という現状は、決して健全ではありません。
この機会に、社会保険制度のあり方について、一人ひとりが考えてみてはいかがでしょうか。
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