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「オルツに粉飾決算〈疑惑〉── 決算書で光った“異常値”を読み取れたか?

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「オルツに粉飾決算〈疑惑〉── 決算書で光った“異常値”を読み取れたか?

パーソナル人工知能(P.A.I.)を掲げて東証グロースに上場したオルツ(証券コード260A)は、2025年4月25日に「第三者委員会の設置と四半期決算開示の遅延」を発表し、売上計上に疑義が生じたことで粉飾決算疑惑の渦中にあります。

実は同社の過去の決算短信やIR資料を丹念に追うと、「売上高の急拡大に比して営業キャッシュフローが恒常的にマイナス」「売掛金の膨張」「特定取引先への依存度の高さ」など、粉飾を示唆するシグナルが点在していました。

本稿では初心者でも確認できる財務指標を中心に、どのタイミングで赤信号を見抜けたのかを解説し、パーソナル人工知能という成長ストーリーに隠れたリスクを整理します。

この手の話はちゃんと決算書を見ていれば防げる違和感に気付けるケースが多いんですよ。

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目次

オルツとは?―P.A.I.(パーソナル人工知能)の旗手

まずは今回の話の前提となるオルツについて見ておきましょう。

まだ上場したばかりの会社なんですよ。

オルツの概要

オルツは2014年11月26日に設立。

まだ設立10年ちょっとの会社です。

主な業務は以下の通り。

デジタルクローンP.A.I.の開発を最終目的とした要素技術の研究開発とそれらを応用した製品群(CommunicationIntelligence「AIGIJIROKU」等)の展開、AIソリューションの提供

昨今、時流となっているAIしかも目新しいデジタルクローンということで話題となっていました。

主力サービス「AI GIJIROKU」は議事録自動作成クラウドで、2025年1月に利用企業9,000社を突破と公表。

オルツの過去業績(決算)

過去の業績は以下のように発表されています。

単位:千円売上高経常利益当期利益
2019年12月49,317-440,826-571,262
2020年12月55,526-201,746-187,828
2021年12月955,969-384,528-385,478
2022円12月2,666,074-670,352-671,302
2023年12月4,111,995-1,497,762-1,498,712
2024年12月6,057,288-2,413,437-2,694,114

売上はかなりの勢いで伸びていますが、利益は大きなマイナスが続いていますね。

この手のベンチャーでは多いパターンではありますが。

タイムラインと疑惑の発覚

今回の疑惑が出るまでのタイムラインも見ておきましょう。

年月主な開示内容備考
2024/07/31株式100分割を実施。流動性向上(新規上場するため?)
2024/10/11東証グロース市場上場
2025/03/27内部統制報告書を提出。重要な不備の記載はなし。後に粉飾疑惑が生じたことで「統制は機能していたのか」が問題化。
2025/04/141株1円でストック・オプション発行行使者がどれだけいて、売りがいつだったか調べてほしいところ
2025/04/15BytePlusと⽇本市場への⽣成AI事業の提携を発表一時ストップ高
2025/04/25第三者委員会設置と第1Q決算短信延期を発表。粉飾決算疑惑が顕在化、株価急落・PTSストップ安。

上場して半年足らずで出てきた話なのがかなりびっくりですね。

今回の件が発表される11日前の4月14日の1株1円で発行されたストック・オプションと翌日のIRでのストップ高も気になるところ

第三者委員会設置と第1Q決算短信延期が発表された内容は以下のとおり

当社は、今⽉初旬より、証券取引等監視委員会の調査を受けており、これを端緒として確認を進めたところ、当社の「AI GIJIROKU」の有料アカウントに関し、⼀部の販売パートナーから受注し計上した売上について、有料アカウントが実際には利⽤されていないなど、売上が過⼤に計上されている可能性が認められました(以下「本件疑義」といいます。)。「AI GIJIROKU」は、当社が2020年1⽉に提供を開始したプロダクトであり、当社としては、「AI GIJIROKU」の⼀部の販売パートナーの受注分における有料アカウントに係る売上計上額に関する事実関係を明らかにするべく、調査の専⾨性及び客観性を確保した調査が必要と判断し、当社と利害関係を有さない弁護⼠及び公認会計⼠からなる第三者委員会を設置し、同委員会による調査を実施することといたしました。

出典:オルツ 第三者委員会設置及び2025年12⽉期第1四半期決算短信の開⽰が四半期末後45⽇を超えることに関するお知らせ

なお、まだ今回の件は粉飾決算と確定されたわけではありません

オルツの財務諸表で光った“三つの黄信号”

それでは今回の決算書で気になった点を見ていきます。(オルツの決算書を見たのはこの問題が発覚後で後出しジャンケンですが・・・)

営業キャッシュフローと利益の乖離

まずはキャッシュフローです。

この手の話で一番わかり易いのがここですね。

2024年12月期は税前損失26.9億円に対し営業CF▲24.2億円

赤字企業でもCF悪化が続く場合、架空売上で利益を粉飾しつつ現金が伴わない典型例と整合します。

個人的には営業キャッシュフローがマイナスの時点で投資対象外なので、オルツは監視していませんでした・・・

売掛金回転期間

次は売掛金回転期間です。

これもわかりやすいシグナルがでますね。

売掛金残高4.9億円/年間売上22.6億円 → 回収期間約80日

SaaS中心のビジネスとしてはかなり長く、循環取引で帳簿上だけ売上を積み上げた可能性が指摘できます。

以前、粉飾決算で問題になったグレイステクノロジーもここを見れば丸わかりでした。

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“循環取引”を想起させる売上急増

⼀部の販売パートナーから受注し計上した売上について、有料アカウントが実際には利⽤されていないなど、売上が過⼤に計上

とのことですが、その分の代金回収はどうなっていたのか気になるところ。

売上は立っているのに代金が回収されなければおかしいと思うのが普通ですからね。

前述の売掛金回転期間でシグナルもでていますね。

また、広告宣伝費が売上対比で異常に大きいことや、販売先(たぶん販売パートナー)が少数で大半を占め、なおかつ異業種というところも気になるところ。

そうなると日本公認会計士協会が注意喚起する循環取引の典型パターン(スルー取引/Uターン取引)となっている可能性が考えられてきます。

なお、循環取引とは複数の企業が共謀し、商品の転売や役務の提供を繰り返すことで、取引の実態がないにも関わらず、売上や利益を水増しする不正会計の一種。

上場企業の粉飾でかなり多いパターンですね。

書類上は売買が行われているように装っていますので監査でも気づかれないケースが多いんですよ。(取引先もグルですから)

架空売上を計上する際には通常

売掛金 ☓☓ 売上高 ☓☓

という仕訳を計上されます。

それだと売上高の相手科目である売掛金がそのままだと残ってしまうんですよ。

そのため、「売掛債権回転期間(売掛金回転期間)」に兆候が現れやすくなるのです。

しかしそれだとバレバレなので仕入や広告宣伝費など他の名目で、お金を支払って、間にグルの会社複数を通して取り分を少し取ってもらってあとでお金を回収して売掛金を消すなんてことも行われます。

これが循環取引のよくあるやり方ですね。

あくまで可能性の話です。

投資家が事前に気づけたチェックポイント

それでは投資家はどうすればよかったのでしょう。

以下の点に気をつけるのをおすすめします。

・営業CF<当期純利益が2期以上続く
・売掛金/売上高が40%超
・KPI(導入社数など)急増と売上の伸びが比例しすぎる
・第三者割当増資やSO大量発行の直後に大型広告宣伝費
・監査人の交代・注記増加(但し書き意見など)

KPI(導入社数など)急増が本当なら株価高騰のチャンスですから、紙一重で難しいですけどね。

パーソナル人工知能ブームとバリュエーションの罠

P.A.I.は人的リソースを解放する夢の技術として評価されますが、

  • 市場規模やマネタイズモデルが未確立
  • 他社製LLMのライセンス費用増大
  • 個人データ保護規制強化リスク
    など不確実性が大きく、財務が健全であって初めて持続的成長が可能です

AIとかP.A.I.とか言われると高騰しがちな株ですが自分がちゃんと理解する必要がありますね。

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まとめ

今回は「「オルツに粉飾決算〈疑惑〉── 決算書で光った“異常値”を読み取れたか?」と題してオルツの決算についてみてみました。

オルツの粉飾決算疑惑は、営業CFの恒常的なマイナスや売掛金の膨張など、決算書を読めば早期に察知し得たシグナルが複数存在していました。

ですからしっかり決算書を読んでいれば回避できた可能性が高いんですよ。

本記事が、粉飾決算からポートフォリオを守るファンダメンタル分析の第一歩となれば幸いです。

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